歌手としての実績は輝かしかったあべ静江(64)が、ームを巻き起こした「トラック野郎・爆走一番星」(東映)で、2代目のマドンナに抜擢されたのだ。
──73年に「コーヒーショップで」で歌手デビューし、同年の新人賞をアグネス・チャンや桜田淳子らと争いました。それから2年後の映画デビューですね。
あべ その当時は、当たり前ですが仕事の選択権などなく、言われるがままに現場に入って。とにかくタイトなスケジュールで、バタバタしていた記憶があります。
──もともと大作の予定が飛んで、穴埋めで作った「トラック野郎」の第1作が予想外の大ヒット。この2作目は、堂々の正月映画にラインナップされました。
あべ 実は、ほんの数年前に当時のマネージャーだった人から聞いたんですが、同じタイミングで「男はつらいよ」(松竹)からもマドンナ役のオファーがあったそうなんです。
──清純派として、お声がかかるのは当然です。
あべ ところが、ウチの事務所は深作欣二監督の熱烈なファンとか多く、何の迷いもなく東映モード(笑)。寅さんのマドンナは丁重にお断りしたそうです。
──正直なところ、寅さんのほうを選んでくれていたらとは思いませんでした?
あべ マネージャーも今になって「あの選択でよかったんでしょうか?」と言ってきました(笑)。どちらを選んでも、私にとっては初めての映画の現場だから、緊張感は同じですよ。
──映画では文学少女の瑛子役でした。
あべ 鈴木則文監督がもともと、文学青年でいらしたんですよ。そんな自分を女性に変えたら私の役どころになるなと思って描かれたそうです。
──主演の菅原文太も愛川欽也も、そして鈴木監督も近年、立て続けに亡くなられました。
あべ そうですね‥‥。文太さんで覚えているのは、長崎のロケのあと、スタッフや出演者、地元の方々も含めて、200人で大宴会をやったんです。そこで文太さんが私に、ものすごく熱く、延々と演劇論を語っていらして。私は「えーっ、こんなことをお話になるんだ!」と驚きましたね。
──確かに、桃次郎のキャラとは別人のようです。もう1つ、テレビでは中村雅俊主演の「青春ド真中!」(78年、日本テレビ系)でもマドンナ教師役を演じています。
あべ その教師のあだ名が「ビックリマーク!」なんですよ。いつも私がびっくりしたような丸い目をしているからと(笑)。
──撮影は順調でした?
あべ 楽しかったですねえ。高校生役でも実際は20歳過ぎている子もいて、終わると引き連れて飲みに行ってたの。
──さすがは芸能界きっての酒豪!
あべ 藤谷美和子ちゃんもいたけど、彼女はまだ未成年だったから、ゴハンだけ食べさせて早めに家に帰すとか配慮しましたよ。
──さすがマドンナ先生。
あべ そんな思い出も含めて、6月に初めての自伝を出すんです。いろんなことを包み隠さず書いているので、読んでくださいね!