やり直しがきかない生放送では、想定外の事態も容易に起こりうる。防ぎようがなかった大事故や舌禍、場外乱闘をここに。
夜明けの時間帯に戦慄が走ったのは98年9月2日のこと。若手アナだった菊間千乃は「めざましテレビ」(フジ系)の「それ行け!キクマ」のコーナーで、避難器具の体験レポートに挑戦。
マンションの5階から器具で地上に降りたものの、固定がしっかりせず、約13メートルの高さから地上のマットに叩きつけられてしまう。
「あっはっは、そうなんだ、外れちゃった‥‥え? 菊間ちゃ~ん!」
同僚の小島奈津子アナが異変に気づいて呼びかける。菊間アナは腰椎、胸椎、肋骨などを骨折する全治3カ月の重傷を負った。
その後、フジを退社して弁護士になり、今春からは「ビビット」(TBS系)のコメンテーターになっている。女子アナ史上、最も変節を迎えたケースであろうか。
さて、歌番組の最高峰であるNHKの「紅白歌合戦」は、放送事故の数も群を抜く。長渕剛の3曲ジャック事件(90年)、DJ OZMAの裸ボディスーツ事件(06年)などがあるが、極め付きは吉川晃司のステージ大暴れ事件(85年)だろう。
この日、吉川は予定時間をオーバーして歌い、さらにギターに火をつけてステージに叩きつける。そのため、次の出番を待つ河合奈保子が恐怖におびえ、歌い出しのタイミングを失ってしまう。
「ギターもあそこまで燃やすつもりはなくて、自分でもヤケドして、全部がみごとなほど裏目に出てしまった」
吉川は反省したものの、NHKには十数年の出入り禁止処分が続いた。
さて、出入り禁止ではなく、ドタキャンに見舞われたケースは「ミュージックステーション」(テレ朝系)に多い。03年6月27日には、ロシアの「t.A.T.u」の出演が目玉だったが、オープニングの顔見せに登場したあと、歌の出番になっても現れず。
「出たくねえということです。控え室から出てこないということです」
司会のタモリが顔面蒼白になって、そう説明した。
また11年の25周年特番では、浜崎あゆみが出演をキャンセル。
「スタッフが帰りの搭乗チケットを間違えた」
浜崎は責任をなすりつけたものの、どうやら大トリの座をAKB48に奪われたことが我慢ならなかったらしい。
事態を重く受け止めた所属事務所のエイベックスは、社長名義で「あゆはわが社の中興の祖であるが、今回は厳しく対処するしかない」と、ドタキャンに対しての見解を示した。
最後は、忌野清志郎こそ、「キング・オブ・放送事故」であったエピソードを。89年10月の「ヒットスタジオR&N」(フジ系)に出演した忌野率いるザ・タイマーズは、1曲目こそリハーサルと同じ「タイマーズのテーマ」を歌う。ところが2曲目は──、
「FM東京、腐ったラジオ♪」
「FM東京、お○んこ野郎♪」
自分たちの曲を放送禁止にしたFM東京への恨みを、ひたすら放送禁止用語に乗せて歌い上げる。同じ日に出演したミュージシャンたちは、驚いたり、アゼンとしたり、大喜びしたりと、各人各様の表情を浮かべていた。
司会の古舘伊知郎は演奏終了後に「リハーサルと全然違う曲だもん」と嘆き、FM東京への謝罪を口にしたが、清志郎のロック魂はここに極まれりであった。