9月に行われる自民党総裁選はライバル不在で、3選が確実視されている安倍総理。となると目下、今年は憲法改正の実現に軸足を置くことになる。党でまとめた憲法改正案を通常国会に提示。衆参両院で可決されれば、60日から180日以内に国民投票が実施される。そこで最も重要になるのが、世論の風向きだ。
「昨年秋の衆院選後は『謙虚な姿勢』を強調していますが、安倍政権はすっかり国民に飽きられています。世論調査を見ても総理の続投を望む声は少なく、人気低迷に安倍サイドは頭を悩ませている」(政治部デスク)
国民投票で否決されれば、憲法改正のみならず、安倍政権自体が国民に否定されたことになり、ひいては政変にもつながりかねない。世論の「声」は無視できない状況だが、安倍総理には苦い経験があった。
15年9月19日、集団的自衛権の行使を可能にする安全保障関連法が賛成多数で可決、成立した。が、国会前や全国各地では反対を訴えるデモが実施され、著名人からもバッシングが噴出した。
15年当時の発言を振り返ろう。落語家の笑福亭鶴瓶(66)は「戦後70年 樹木希林ドキュメンタリーの旅」(東海テレビ/8月8日放送)に出演し、
「このまま進んでいったらえらいことになりますよ。僕らは微力ですけど、違うっていうのは言い続けないとあかん。民主主義で決めるんなら、違憲という人がこんなに多いなら、多いほうを取るべき」
こう訴えかければ、俳優の渡辺謙(58)は自身のツイッターで、
〈国会での答弁から見えてきた、政府の定見なき推測だけで武器弾薬を携えて彼らを任地に向かわせる。未来のない戦いを強いられた栗林中将と何ら変わりがない気がしてならない〉(8月28日)
と主張。ほかにも歌手の美輪明宏(82)や作家の瀬戸内寂聴(95)など反対の輪が広がる中、安倍政権は法案成立を強行した。自民党関係者はこう明かす。
「衆院憲法審査会で自民党推薦の参考人が違憲性を指摘したり、次々と著名人が反対の意見を発して、安倍総理からはイラだちと焦りが見えた。衆院通過後の8月には、安倍政権の支持率は12年の政権復帰後に初めて4割を切り、『このままでは危険水域に突入する』という声も出たんです」
国政選挙で5連勝中とはいえ、森友・加計学園問題で疑念が生じた安倍総理の人気は低く、V字回復にはほど遠い。
今後、憲法改正の本格議論が行われる中で、再び反対派の著名人から政権批判が噴出すれば、15年の「安保バッシング」以上の深手を負うことも想定できる。
安倍サイドが芸能界を牛耳る先には、イメージアップによる悲願達成を見据えているというわけだ。かつて国会議員の政策秘書を務めた作家の朝倉秀雄氏はこう話す。
「芸能人と会食すると、テレビ番組などでその時のエピソードを好意的に話してくれるので、大きな宣伝効果につながります。また、実際に安倍総理に会うと、その人柄に親しみを覚えて、アッという間に取り込まれてしまうのです。そうなると、総理の悪口はもちろん、政策を批判することもできなくなるでしょうね」