「仇敵」が検査入院したとのニュースに、九重親方(60)=元横綱千代の富士=は小躍りしたい心境だったのではないか。自身も内臓疾患で名古屋場所を全休しながら、水面下では理事長就任への「裏工作」を展開していたのだから。日本相撲協会の内紛をスッパ抜く!
「北の湖理事長(62)は3年前にも大腸ガンの手術で入院。人工肛門をつけたと言われます。そして一昨年暮れにも同様の疾患で入院。今回の名古屋場所では7日目から休場して検査入院しましたが、転移したのではないかともささやかれるほど。理事長は糖尿病も患っており、非常に心配ですね」
声を潜めてこう語るのは、北の湖理事長と親しい元力士である。
「今回ばかりはかなり深刻な病状だと聞いています。理事長自身も『先』のことを心配しているようで、来年初場所後の役員選挙に備えて動きだしている。理事長は八角親方(52)=元横綱北勝海=を後継者と考え、あとを託すつもりでいますが、八角親方の地盤は決して盤石ではない。仲のいい尾車親方(元大関琴風)が領袖を務める二所一門から2、3票回してもらっている不安定な状態です」
そこにつけこもうと工作を仕掛けたのが、理事長就任の野望を持つ九重親方。何しろ昨年の役員会では北の湖理事長と丁々発止を繰り広げ、落選。理事から委員に降格となったのだ。北の湖理事長の思うままにはさせまいと、
「八角親方にダメージを与えるべく、直系の谷川、陣幕の部屋付き親方2人を九重部屋に引き抜く荒技を繰り出した」(前出・元力士)
元関脇北勝力こと谷川親方は、白鵬と優勝決定戦を演じたこともある個性派力士だった人物。陣幕親方(元前頭富士乃真)は、弟子である九重親方と金銭トラブルで袂を分かったNHK解説者・北の富士勝昭氏の井筒部屋(のちに九重部屋を継承)に入門した、いわば北の富士氏の愛弟子で、反九重の急先鋒。しかも、北の富士氏から年寄名跡を譲ってもらう際、北の富士氏には逆らわないという約束まで交わしている。当然、北の富士氏は陣幕親方の移籍に激怒し、「勘当だ!」と言い放ったという。
「八角親方は努力で綱を張った人。下の頃は目立たず、所属する部屋まで間違えられる始末でした。部屋では今も、努力しろと口を酸っぱくして言う。何がきっかけで飛び出したかははっきりしませんが、やはりお米(現金)ですかね。実は2人はすぐに北を向いてしまう(機嫌が悪くなる)スネ者。タニマチやスポンサー筋からの分配金が少ないと、反発したのかもしれない」(相撲関係者)
さらに来年の役員選挙、理事長選には、勢力を拡大中の貴乃花一門が控えている。相撲関係者が続ける。
「先頃亡くなった音羽山親方(元大関貴ノ浪)が手練手管で貴乃花に同調する親方衆をどんどん増やしていきましたが、その中に錦戸親方(元関脇水戸泉)がいる。錦戸親方は八角親方に一票を投じていた人物。その票ともども、九重親方に買収される親方が続出すると、結果がどうなるかわからない」
6月30日、パチンコ台の開発企画を巡る恐喝未遂事件で、九重親方の知人男性が警視庁渋谷署に逮捕された。九重親方はこの知人の相談に乗っていたというが、「勝手に俺の名前を使われた」と、気にしている様子もないらしい。
「そんなことより、自分が実権を握って相撲協会を動かしたい。ポチ(八角親方の愛称)ごときに取られてたまるか、と。主役はあくまで自分だと思っているんですから」(前出・元力士)
こうした水面下の丁々発止について、相撲ジャーナリストの中沢潔氏が言う。
「相撲人気が盛り上がり、再び相撲ブームが訪れている中、北の湖さんや九重さんの争いは新しい時代にそぐわない。次の時代にバトンを渡して引退したほうがいいと思いますね」
だが野望とリベンジに燃える九重親方に、そんな声は届きそうもない──。