まごうことなき青春ドラマの傑作が「おれは男だ!」(71~72年、日本テレビ系)だ。今や千葉県知事の森田健作を相手に、ヒロインの吉川操を演じた早瀬久美(63)が振り返る。
「つい先日、健ちゃんがテレビで久々に4曲も歌うというので、応援メッセージをお願いされたんですよ。本人も四十数年ぶりに歌う歌もあったりして、楽しそうでしたね」
健ちゃんとは、もちろん森田健作のこと。大ヒットした「おれは男だ!」では、女子上位の高校で対立しながらも、やがて理解を深めていく間柄を演じた。
これがテレビでは初共演だが、松竹の映画では何度も同じ作品に出演した。それでも、それ以上に発展することはなかったという。
「向こうからアプローチがあれば別だったんでしょうけど、健ちゃんは女の子に対しては素朴すぎて、まったく関心がないような感じ。でも、何もなかったからこそ、長いつきあいができたのかもしれませんね」
女優業と並行して、ワイドショーの司会などにも進出するようになった。さらに異色なのは、70年代から80年代にかけて異彩を放った「水曜スペシャル」(テレビ朝日系)の名物企画・川口浩探検隊の一員だったというのだ。
「多くは東京のスタジオから探検レポートを見守っていましたけど、何度かは、川口さんと一緒に現地にも行きましたよ。印象的だったのは台湾の奥地を訪ねた時。大蛇をいくつもぶら下げていて、そこに大ナタを振るって料理するんです。私も生き血をそのまま飲まされたことがありました」
80年に結婚して、83年にはサンフランシスコに移住を決めたことで芸能界を引退。娘も生まれて平穏な日々を送っていたのだが、89年に起きたサンフランシスコ地震が人生観を変えた。
「庭にあったプールの水に飲み込まれるんじゃないかと思ったくらいの大揺れ。実はその数日前から予兆はあって、どこからとも知れず異様なニオイを感じていたんです」
さらに帰国後、出身地である神戸で阪神・淡路大震災にも遭遇。ありとあらゆる地震関連の本を読み、造詣を深めていったという。
そして02年に芸能界への復帰、07年には離婚と続いた。
「夫との連絡はとだえていたけど、離婚して数年後に亡くなったと聞いた時はショックでしたね」
そして現在は、再開した女優業と並行して「異業種ネットワーク」の主宰者としても活動している。その原動力は、自身が離婚したことと無縁ではない。
「これからどんどん高齢化が進んで、1人では旅行に行きにくくても、サークルのような仲間がいれば行きやすくなると思うんです。1年ほど前から何回かパーティを開催しましたが、最近は告知から3日ほどで満杯になるんです」
そのリーダーシップは、森田健作が「吉川くん!」とかん高い声で呼んでいた女子高生役と少しも変わらない。