日本のテレビの歴史は、常にドラマの話題とともにあった。あの高視聴率作品から知る人ぞ知るコアな佳作まで、魔境に入り込んだ歴史をここに…。
先日逮捕された高樹沙耶は、人気シリーズの「相棒」(00年~、テレビ朝日系)に重大な影を落とした。杉下右京(水谷豊)の元妻役でシーズン10まで出演。そのため、昼の再放送枠では現在、高樹の出演した回は見送られている。
そして、高樹に関係なく“永久欠番”となったのが、シーズン3の第7話「夢を喰う女」(04年)だ。右京と亀山(寺脇康文)は、図書館司書の女から閲覧者の個人情報を聞き出す。
「図書館員の倫理綱領と守秘義務違反にあたる」
図書館の関係者からの厳重抗議を受け、テレ朝は欠番という判断を下した。
抗議によって制作自体が中止になったのは、ビートたけしを田中角栄役にもくろんだ「異形の将軍」(未放送、フジテレビ系)である。03年に発表されると、田中真紀子を中心とした遺族側の猛抗議を受け、あえなく断念する。
今年、NHKが「ロッキード事件」を実名でドラマ化したことを思えば、もう少し粘り強く交渉してもよかったかも‥‥。
ジェットコースタードラマの元祖で知られる「もう誰も愛さない」(91年、フジテレビ系)には、再放送やDVD化でカットされた伝説のシーンがある。悪徳弁護士に扮した伊藤かずえが、悪の親玉(伊武雅刀)に200億円を要求したせいで、バラバラ死体にされる。そしてゴミ捨て場に「ゴロリと転がる生首」のシーンが映し出され、大きな話題となった。
現在は封印されていることを伝えると、伊藤は不満そうに語った。
「あれで私は女優として一皮剥けたと思った。それがカットされていたなんて、ちょっと残念」
撮影そのものがエポックメイキングだったのは、泉谷しげるが俳優として高く評価された「戦後最大の誘拐 吉展ちゃん事件」(79年、テレビ朝日系)だ。泉谷は誘拐犯・小原保に扮し、26%の高視聴率を獲得したが、監督の恩地日出夫と口論になる。
「お前には人の心がないのか!」
恩地監督は、小原が実際に吉展ちゃんを絞殺した現場で、同じシーンの撮影をしようとした。
「じゃあ、お前にはあるのか?」
監督に言い返された泉谷は、無言でその場面の撮影を続けたという。日本に2時間ドラマを定着させた名作だが、ソフト化も再放送も実現していない。
ドラマが実際の事件に影響を与えたとされたのは、「必殺仕置人」(73年、朝日放送)と「ギフト」(97年、フジテレビ系)の2本である。
まず「必殺──」は、殺人事件の容疑者が取り調べ中に番組の影響をほのめかした。局やスポンサーは打ち切りを検討したが、容疑者のひと言で事態は急展開する。
「俺はテレビに影響されるほどバカじゃねえ!」
関与がなかったことが証明され、続く「助け人走る」(73年)や「暗闇仕留人」(74年)と、一時的に「必殺」の2文字は自重したが、のちの「必殺仕事人」(79年)につながるロングランシリーズになった。
一方、木村拓哉主演の「ギフト」は、番組終了後に悲劇が起きる。劇中でキムタクが使うバタフライナイフに憧れた中3の少年が、女性教諭を刺殺。ローカル局での再放送は即刻、打ち切られ、DVD化も見送られる形となった。