艶を求めた映画ではない。純然たる一般作でありながら、そこに秘められた女優たちの色香は、より甘美な記憶として胸に残った‥‥。
映画ジャーナリストの大高宏雄氏が「劇場の記憶」として明かすのは、山口百恵(57)の主演第1作「伊豆の踊子」(74年、東宝)だった。
「あの原作は脱ぐんじゃないかとの期待感が高かった。そして岩風呂から飛び出してくるシーンは、厳密には肌色の襦袢のようなものを着ているが、それでも吹き替えなしの本人。何とも生々しい体つきで、映画館にいた観客から歓声が起きていました」
女優視点で語る映画評論家の秋本鉄次氏は、邦画で初めて配給収入が10億円を超えた「日本沈没」(73年、東宝)を選んだ。
「いしだあゆみ(68)が見せた藤岡弘とのラブシーンは印象深い。それまで清純派歌手としては活躍していたけど、女優に転向して、着やせするタイプのグラマラスな肢体にも驚かされました」
74年度の配給収入で4位にランクインした「華麗なる一族」(東宝)は、山崎豊子原作の骨太な群像劇である。実に3時間半もの長丁場であるが、意外なハイライトがあったと大高氏が言う。
「主演の佐分利信が妻の月丘夢路(94)とベッドにいて、そこに愛人の京マチ子(92)も呼び込む“妻妾同衾”のシーン。日本の一般作で初めて3Pが描かれたシーンであり、あの重厚な佐分利がそれを演じ、2人の女優のボリューム感も見応えがあった」
デビューからヌード作品が続いた関根恵子(61)だが、文学性という点では「朝やけの詩」(73年、東宝)が1番だ。
「北大路欣也と森の中で抱き合っているシーンは、関根恵子の体の美しさが際立っていた。その場面をポスターに使っていたのだから、当時はおおらかでしたね」(前出・秋本氏)
湖で泳ぐ場面では、あまりの水面の透明度にヘアが透けて撮り直しという一幕もあったようだ。
「意外なところでは梶芽衣子(69)の大ヒット作『女囚701号/さそり』(72年、東映)もいい。シリーズ1作目の冒頭でヌードになっており、映画自体も添え物扱いからメインに昇格する動員力を発揮した」(前出・大高氏)
戦後最大のベストセラー小説を映画化したのが「青春の門」(75年、東宝)である。吉永小百合の自慰シーンや、関根恵子の外国人とのカラミも濃厚だったが、これが映画デビューである大竹しのぶ(59)の初ヌードこそ拾い物。
「当時、朝ドラヒロインでありながら映画でヌードになったことで物議を醸したほど。いかにも田舎の少女という素朴で生々しい体つきがよかった。大女優となる第一歩でしたね」(前出・秋本氏)
あの健さんの数少ない濡れ場の1つが、倍賞千恵子(75)を相手にした「駅/STATION」(81年、東宝)である。八代亜紀の「舟唄」をモチーフに、小料理屋の出会いから恋仲に発展する。
「情事が終わったあと、倍賞が『私、声大きくなかった?』と聞く。健さんは『いや』と否定しながら、心の声として『樺太まで聞こえるかと思ったぜ』とつぶやく有名なシーンです」(前出・大高氏)
そして最後は「お葬式」(84年、ATG)である。故・伊丹十三の監督第1作で、地味な題材と思われながら、予想外のヒットを記録。テレビでも繰り返しオンエアされていたが、誰の脳裏にも浮かぶシーンといえば──、
「喪服姿の高瀬春奈(62)が、愛人の山崎努と竹やぶでバックからの挿入をせがむ場面でしょう。お葬式の最中という背徳感、そして巨尻を丸出しにした高瀬の豊満な体は刺激的だった」(前出・秋本氏)
これこそ本来のテーマと違う“想定外のエロス”であったはずだ。