まだ流行語大賞などない時代だが、73年公開の「同棲時代-今日子と次郎-」(松竹)は、若者たちのライフスタイルを変えるほど影響を与えた。主演の由美かおる(66)もまた、女優として大きな分岐点となった。
「皆さんの話題になった映画のポスター、顔だけ強張った表情をしているでしょ? 私は脱ぐのは初めてで、お話をいただいてから1週間も悩みました」
清純派のアイドルが一糸まとわぬ姿を見せた衝撃は、戦後の芸能史でも特筆に値する。そんな由美が映画と初めて向き合ったのは66年のこと。まだ15歳ながらB86・W58・H86と抜群のプロポーションを誇り、網タイツ姿で「11PM」(日本テレビ系)に西野皓三氏の企画・構成・振付の歌と踊りで出演すると、状況が一変したという。
「局に『あのトランジスタグラマーの子は誰だ?』と電話が殺到したそうです。その中の1本が石原裕次郎さんからで、自分の映画に相手役として出演してほしいと。15歳の新人は、ただただ裕次郎さんのカッコよさに見惚れるばかりでした。映画デビュー作の『夜のバラを消せ』(日活)では、私は兵庫県育ちなので関西弁を標準語に直し、しかも、たくさんあるセリフに苦労しました」
やがて、数多くのドラマや映画、そして日本中にホーロー看板が貼られた「アース渦巻」のCMなど、若者のアイドルとして活躍。そして主演作で公開されたのが「同棲時代」である。
上村一夫原作の劇画はベストセラーとなり、大信田礼子が歌った主題歌も大ヒットし、新語である「同棲」は社会現象になった。由美は広告代理店に勤めるOL・今日子に扮し、売れないイラストレーターの次郎(仲雅美)と同棲を始める。やがて2人は、今日子の妊娠・中絶など、若さゆえの不安定な日々を送るようになる。
「私は23歳でしたから『同棲』という経験もありませんし、初めてのベッドシーンもどう演じていいかわからない。山根成之監督に『はい、こっち向いて、1、2、3、4』と言われるまま、バレエのカウントを数えるような形で、無我夢中で演じていました」
そして立ち姿でヒップとバストを同時に見せたポスターは、街のいたるところで盗難が相次ぐ人気となった。実はその立ち姿は劇中には登場しないが、山根監督の「メルヘンとして撮りたい」という強い希望でポスターに結びついた。
由美にとって芸能活動の原点である「11PM」からは、同年の「全日本ポスター大賞」を授与された。
さらに文芸大作として公開された「しなの川」(73年、松竹)も、由美の美しいヌードが話題となった。
「今、考えたらヌードを立て続けによくやったなと思います。ですが、作品の中で必然性があったということです。私には古風な面と、現代的な面の両方があると思っているんです。私が出た作品って、未来を先取りするようなものが不思議と多いんです」
前出の「同棲時代」はもちろん、小松左京の熱烈なラブコールで出演したドラマ版の「日本沈没」(74年、TBS系)、終末思想を描いた「ノストラダムスの大予言」(74年、東宝)も、そうした一群である。
その一方で、25年もの間、レギュラー出演を務めた「水戸黄門」(TBS系)のように、安定感のある役どころも定評がある。
「女優としてだけではなく、現在は西野流呼吸法の講演も全国で行っていますし、アコーディオンも練習中。まだまだこれからも新しいことにチャレンジしていきたいです」
15歳の時のジーンズがそのまま着れる体形の維持も驚異的だ。