18年ぶりとなる日本人横綱誕生に向けて、稀勢の里(29)=田子ノ浦部屋=が越えなくてはならない壁が横綱・白鵬(31)だ。綱取りがかかった先の夏場所でも激しい優勝争いを繰り広げた両力士は、場外でも遺恨の火花を散らしていた。
「稀勢の里の実力はすでに横綱級。さらに研鑽を積めば風格が出てくると思う」
と語るのは相撲ジャーナリストの杉山邦博氏。横綱に最も近い大関と言われながら、約4年半も足踏み状態が続いていた稀勢の里の変貌ぶりについてこう続ける。
「今年初場所での琴奨菊の初優勝が刺激になったのか、先場所あたりから相撲が変わってきた。特に春場所の鶴竜戦では、鶴竜の喉輪攻めからのもろ差しで土俵際まで押し込まれたが、右からの小手投げで逆転勝ちした。あの粘りが夏場所まで続き、優勝戦線に踏みとどまった。もともと実力のある力士で、いつ開花するのかとヤキモキしていたが、ようやく花が開いたと言える」
相撲に詳しい漫画家のやくみつる氏も賛辞を惜しまない。
「多少、甘くてもいいから、僕はこの際、稀勢の里を横綱にすべきだと思う。大関昇進の際も、成績が十分でないと異論が出たが、審判部の評価が高く、大関として力を発揮するとの判断で、大関に昇進させたら勝率7割でしょう。横綱に昇進させても、申し分のない成績を残すと思いますよ」
好角家の評価が高いのも稀勢の里が初土俵以来、故・鳴戸親方(元横綱・隆の里)のもとで、ガチンコ相撲を取り続けていたからだ。
相撲関係者が言う。
「取組を見てきた貴乃花巡業部長も高田川審判(元安芸乃島)もガチンコ相撲。2人は犬猿の仲ですが、ガチンコで勝つのがいかに大変か身をもって知っている。八百長はなくなったと言われる今の土俵でも、モンゴル人力士はいまだに“怪しい相撲”を取っているという声も聞く。そういう意味で、ガチンコの稀勢の里は非常に評価が高いんです」
おまけに協会幹部にはモンゴル人力士を疎んじる空気が蔓延しているという。
「今の白鵬は立ち合いから右肘からのかち上げで、相手をノックアウトするような取り口が目立つが、あれは大砂嵐が得意とした取り口。しかし、大砂嵐の師匠である大嶽親方が『顔を狙うかち上げは相撲道に反する』と発言し、14年の名古屋場所では白鵬戦でかち上げを繰り出すことを禁じた。そうした経緯があるだけに、白鵬だけが許されるのはどう考えてもおかしい。日馬富士も鶴竜も白鵬の独り勝ち状態を許し、横綱とは言えない体たらく。この際、稀勢の里が横綱に昇進し、2人のだらしない横綱には引退してもらいたいという空気があるんですよ」(前出・相撲関係者)