事件

若妻逮捕から2年「紀州のドン・ファン殺人事件」裁判に浮上した「隠し球の証拠」

 あれからちょうど2年になる──。

 21年4月28日の午前5時すぎ、NHKが臨時ニュースとして報じたのは「紀州のドン・ファン」の若妻逮捕という衝撃的なものだった。

「和歌山県田辺市の資産家・野崎幸助さんが自宅で殺されていた事件で、和歌山県警は先ほど、都内のマンションで暮らしていた妻の早貴容疑者を逮捕しました」

 事件は18年5月24日に起きたのだから、逮捕まで約3年近くもかかったことになる。

 野崎さん(享年77)の死因はシャブを大量摂取したためであるが、彼にはそうした摂取歴はなく、誰かが何らかの方法で飲ませたと、捜査当局はニラんでいた。在阪の社会部デスクが言う。

「世間は和歌山のカレー事件のように、確証がないから時間がかかったように思っていますが、和歌山県警はいつでも逮捕する自信はあった。大阪高検の検事から、もっと詰めなければダメだと指摘されていたと聞いています。彼女に薬物を渡した者も分かっているようだし、物証と犯罪動機もあるとして、裁判に臨むんじゃないでしょうか」

 事件発生時に一軒家の自宅にいたのは、野崎さんと妻の早貴被告、そして午後7時半過ぎに用事から帰ってきた、お手伝いのKさんだけだ。自宅には8台もの防犯カメラが死角のないよう設置してあり、それには不審な人物は映っていなかった。外部からの侵入者はいなかったことになるのだ。早貴被告とKさんは重要参考人として十数回も警察に呼ばれたものの、2人とも犯行を否定していた。

 野崎さんは亡くなる4カ月前に早貴被告と入籍したが、76歳と21歳のカップルであり、その差は55歳もあった。バツ2の野崎さんに子供はおらず、札幌出身の早貴被告は初婚だった。

 自称モデルの彼女は、結婚後に仕事を整理するからと、東京・新宿区内の自宅マンションに戻ると、2カ月も帰ってこなかった。その後、田辺市内の自動車教習所に通い、1カ月で免許を取ると、ゴールデンウイークには再び、東京や札幌へ旅立っていった。

 野崎さんとの結婚の条件は「毎月100万円をくれること」というものだったが、早貴被告のわがままで、2人の仲は次第に険悪になっていった。

 その頃、野崎さんは、都内で知り合った「ミスワールド」と称する美女を気に入った。そうして早貴被告との離婚を考えるようになった頃に、自宅2階の寝室で亡くなったのだ。

 野崎夫妻の事情を知る関係者が明かす。

「野崎さんが亡くなるまで、実際は2人の仲がいいということはありませんでした。それが亡くなった途端に、早貴の態度が変わったのです」

 Kさんもそれに気づいていたようで、

「社長(野崎氏)は『オレが亡くなったら、Kさんには1000万円をあげるから』と常日頃、言っていましたが、実際に亡くなると、早貴は『いいえ、社長はKさんに3000万円をあげるように』と言ったんです。そして、私にやけに仲良く接するようになりました」

 3000万円への「増額」で、Kさんを味方にしようとしたのか。自動車教習所への送り迎えを担当したKさんが、迎えにいくのが10分ほど遅れた時、早貴被告は、

「何をやってんのよ。使えないわね」

 と強い口調で詰め寄ったほどなのに…。

 早貴被告は事件直後、親しい従業員に次のように答えていた。

「私は夕方まで社長と一緒に2階にいました。私はゲームをしていて、社長はテレビを見ていました。途中で下へいき、社長はビールを飲んでから上に戻ったんです。私は1階のジャグジーバスに入ってから、1階のリビングでテレビを見ながら髪を乾かしていた時にKさんが戻ってきたので、一緒にテレビを見ていました」

 ところが社長が2階で見ていたテレビの番組名を答えられなかったばかりか、一緒に下に降りていった時間もあやふや。そして「相撲を見ていたんじゃないのか」との従業員の問いかけに「そう、そう」と答えたのだ。

 Kさんが言う。

「1階に行って社長はビールを飲んだと早貴は言うけれど、私が自宅に戻ってきた時には、リビングのテーブルの上にはビール瓶がなかったから、おかしいと思ったんです。早貴が片付けをしたことは、一度もないんですから。リビングでテレビを見ることもなく、彼女は暇さえあればゲームで遊んでいましたので、これも不思議だと感じたんです。8時半頃に上からドンという音がしたので『社長が呼んでるんじゃない。行った方がいいわよ』と伝えたのに、彼女は『行かなくていいわよ』と動かなかった。それから1時間も経って2階に行った早貴は『大変、大変』と言いながら、降りてきた。私も一緒に上に行ったら、ベッドの前のソファーに社長が横たわっていたので『社長、社長』と言いながら抱きついたんです。早貴は119番通報をして蘇生の仕方を私に言うだけで、一度も社長の体に触ることすらしませんでした」

 ところで不思議なことに、早貴被告の裁判日程は、いまだ決まっていない。この4月になって、検察から元従業員に連絡があった。

「『転勤になってこちらに来たので、ご挨拶です』と言うだけで、裁判に関して触れることはありませんでした。どうやら裁判の証人として、私を呼ぶ気はないようです。ということは、状況証拠ではない、何か強い証拠を握っているのだろうと推測しました」(元従業員)

 その「隠し球」とは何なのか──。

 和歌山市内の中心部から車で5分ほどのところの住宅街に、早貴被告が収監されている丸の内拘置所がある。屋上には運動ができるスペースが見えるが、彼女は否認を続けているため接見禁止であり、弁護士以外が会うことはできない。

(深山渓)

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