2018年5月16日。女優・星由里子が旅立った。享年74歳。74歳ではあったが、若々しい印象を保ったままの死ではなかったか?思えば、これ以外には考えられない芸名である。「スター」と「百合」の共演。本名さえも清水由里子と清々しい。
ただ、この“由里子嬢”は、少しばかり嫉妬深くて、勝気のいわゆるヤキモチ焼きで、つき合う男をしばしば戸惑わせる。特に、少しばかり男女のことに疎く、無頓着な男の場合はなおさら対比は鮮やかになる。
そんな役柄のイメージがつきすぎて女優としてのキャラクターによからぬ影響を与えることも少なくないが、星の場合は生涯の清新なイメージにつながったといえよう。
加山雄三と共演した若大将シリーズ第1弾の「大学の若大将」がそれである。
星の役名は澄子。やはり、濁りがなく清い、澄んだ娘の役で、製菓会社の売り子という役柄である。
大学の水泳部のエースという設定の加山雄三の役名は田沼雄一。麻布にある老舗すき焼き屋「田能久」の跡取り息子。二人は、いろいろと関わり合いになり、魅かれながらも、互いに反発し合う。お約束の行き違いが、心地良くゆったりとしたテンポで描かれる。1961年7月8日東宝系公開だから星は当時17歳。嫉妬に駆られた眉根を寄せた顔も美しい。若大将の単刀直入かつ、ぶっきらぼうな名セリフがある。
「僕はね、本当のこと言うとね。女の子にはあんまり関心がないんだ。でも、年寄りに親切な人は別だ。つまり、澄ちゃんは好きだ」
バスの中で年寄りに席を譲る澄子との出会いが、若大将と澄子の初めての出会いであり、若大将の母親代わりが祖母役の飯田蝶子であった。この澄子こと、澄ちゃんは人気となり、加山雄三演じる「若大将シリーズ」のセンターヒロインとなるのである。
星の実人生はその後、実業家・横井英樹の長男・邦彦との80日離婚劇、脚本家・花登筐との再婚と死別、一般の会社役員との再々婚と波乱万丈であるが、星本人は、変わらずに澄んだ青春のイメージを身にまとっていた。
日本もまた、青春そのものの高度成長期の入口であり、初の東京五輪を3年後に控え、日本中が沸き立っていて、元気であった。
若大将シリーズは、「銀座の若大将」(62年2月10日公開)と続き、3作目で早くも「日本一の若大将」(62年7月14日公開)と文字通り、日本映画を代表する人気作品となるのである。
ところで、若大将といえば青大将・田中邦衛を忘れるわけにはいかない。今年3月24日に鬼籍に入った田中の最初の当たり役が青大将であった。「大学の若大将」では、出演者クレジットでは後ろに近い18番目。星の勤める製菓会社の重役のせがれ役で、若大将のクラスメイトだ。サングラスに帽子をかぶり粋がる様は、まさに「青大将」で、一歩間違えば、「鼻持ちならない」ところを天性の「情けなさぶり」が、あと一歩のところで救っているのも見どころと言えようか。
あの澄ちゃんが、青大将とのまさかの「ドライブデートOK」シーンとその後など、その白眉といっていい名シーンである。
ラスト近くに、「若大将、今ね、MMKなのよ」の謎のセリフが、これもまた若大将のクラスメイト役である団令子から発せられる。ミュージシャンDAIGOの「DAI語」の先取りのようなフレーズだが、これに、「モテてモテて困ってる」のセリフが続くのである。確かにこれ以降、日本中でモテまくる若大将ではあった。
(文中敬称略)