コメが高騰し、国民はカサ増しに麦飯や大根メシを食べているというのに、政府はいったい何をやっているのか…。
食料危機の恐れがある場合に、農家に生産計画の届け出や生産転換を指示、罰金を科す「食料供給困難事態対策法」が4月から施行された。同法をめぐっては2月、農林水産省が公式サイト上で、「食料が配給制になる」などのデマが拡散されていると、異例の呼びかけを行っている。
国民からデマや不信感が噴出するのも致し方ない。店頭からコメが消えた昨夏、実は政府は国産米の輸出を促進していた。昨年1月から7月までの国産米の輸出量は、前年比23%増の2万4469トンにのぼる。
梅雨入りした6月にはすでに店頭からコメが消えていたのに、それでも中国などを相手にせっせと国産米を送り、今度は中国産米を輸入するというデタラメぶり。昨年から続くコメ流通をめぐる混乱は、国による人災と言える。
さらに「食料供給困難事態対策法」と矛盾するのが、国の「減反政策」。2018年までコメ農家には国からの生産数量目標が配分される、共産主義のようなコメ作りが続いていた。第二次安倍政権でこの生産数量目標が撤廃され「減反政策」は廃止されたという建前だが、実際にはこの改悪がコメ農家をより苦しめた。
説明がわかりやすいので、栃木県真岡市の例を挙げてみる。同市の公式サイトでは〈米農家のみなさまへ〉として、コメから他作物への転換を呼びかけている。建前上は行政による生産数量目標の配分がなくなって、
〈生産者個人がより自由に主体的な判断により米の生産量を決められるようになりました〉
としながらも、
〈これからの米づくりは、米の消費量(需要)が人口減少や食の多様化により減少している中、生産者は消費者ニーズにきめ細かく対応した生産を行い、米の需給と価格の安定を図る必要があります。主食用米の需要の減少が見込まれる中、米の消費拡大や需要のある他作物への転換を図り、需要に応じた生産を進めることが必要です〉
〈真岡市における「主食用米の作付参考値(面積)」を提示し、農家のみなさまが主体的に米の作付を判断できるよう情報提供を行います〉
真岡市に限らず、全国のコメ農家に提示された「参考値」という、行政からの「無言の圧力」をもとにコメ生産量を減らした結果、猛暑や自然災害でコメが不作になり、品質悪化で減収しても「コメ農家の主体的な判断に基づく自己責任」だという。こんな無責任な農業政策があってたまるか。
減反政策が廃止された2018年のコメ農家廃業件数は過去最悪となり、2023年、2024年にはコメ農家廃業件数が過去最悪を更新し続けている。
コトここに及んで「食料供給困難事態対策法」で農林水産省は、コメを作れ、小麦を作れ、他農産物に転作しろと生産者をとことん翻弄し、罰金まで要求するというのだから、農家の廃業が増えるのは確実だ。施行前にまずはコメ農家に自由にコメを作らせ、目の前のコメ不足を解消するのが先ではないのか。
(那須優子)