名優・原田芳雄にインタビューしたことがある。しかしそれは、どうにもありえない、異常な状況で行われた――。
1984年の「海燕ジョーの奇跡」(時任三郎、藤谷美和子主演)という映画で、フィリピンロケを行った際のことだ。フィリピンのリゾート地にあるホテルのカフェで、助演の原田を取材することになった。映画「龍馬暗殺」(1974年)での坂本龍馬役などで、個人的に思い入れのある俳優だった。
インタビューでは「海燕」への思いや、自身の役柄について聞いていた。すると隣の席に、2人の日本人が座った。同時に奇妙な香りが漂った。なんとなく嫌な予感がしたが、インタビューを続けると、その予感は的中した。
筆者の質問に原田が答えると、彼らは「ギャハハハ!」と高笑いしたのだ。それは偶然ではなく、原田が話すたびに奇妙な笑い声を上げ続けた。
どうやらマリファナを吸って、ハイになっていたようだ。当時、フィリピンでは比較的容易にマリファナを入手できた。このロケ地周辺でも、1000円程度で買えると聞いていた。
さすがに原田が不快な表情を見せたため、筆者は「やめましょうか」と聞いたところ、「いや、いいよ。続けましょう」。筆者の質問、原田の答え、けたたましい笑い声…そんな異常な状況の中、その後10分ほどでインタビューを終了した。
何の話をしたのか、ほとんど記憶にはない。覚えているのは、この異常な状況の中で平然とインタビューに応えてくれた、原田の信じられない忍耐強さに驚嘆したことである。
(升田幸一)