素人vs素人の絶対に負けられないマニアックな戦いを、ガチで撮影。とくれば、事故が起こらないわけがない。テレビ東京の長寿番組「TVチャンピオン」(92~06年)の名物ラウンドMCにして、日本一素人回しがうまい男・中村ゆうじ(64)が語る。
初出演は93年の「手先が器用選手権」でした。現場スタッフはディレクターとADのみで、選手が狭い寿司屋で米一粒に魚の切り身を乗せる「マイクロ寿司作り」を1人1時間、計5時間撮影。とんでもない番組に関わっちゃったなと思いましたよ。
でも、それは序の口。とにかくロケが過酷なんです。撮影が24時間かかり、選手が途中で「帰らせてくれ!」と涙ながらに訴えることはしょっちゅうでした。
真冬に草津温泉の露天風呂につかりながら戦う「温泉通選手権」は、半裸でロケ4時間ですよ。上半身はマイナス2度という過酷な条件に年配の選手が体調に支障をきたし、スタッフに「リタイアさせてくれ!」と懇願しましたが、「終わらないと帰れません」と非情な答え。ちなみにこのロケ、選手たちは温泉街を浴衣がはだけた状態で必死に走り回り、アソコが丸見え。オンエアではモザイクの嵐でした(笑)。
そういった「マニア系」よりも「職人系」の選手のほうが怒り出す人が多かった。皆さん、店の看板を背負って、人生を賭けて来ていますから。勝敗でその後の店の売り上げが左右されるので、熱くなる気持ちはわかります。
撮影中に「お前が作るのはソバじゃねえ!」と本気で罵り合うソバ職人、結果に怒って帰ってしまった偉い和菓子職人‥‥。特に困ったのが、とある料理選手権の決勝戦後、審査方法とその結果に納得がいかずに「オンエアするな!」と大暴れした料理人がいた。僕にも「この三流芸能人が!」と食ってかかるほど大激怒。結局、優勝者に事情を説明して決勝戦をやり直したら、なんと結果がひっくり返ってしまったんです。当初の優勝者に申し訳なく、悔しかったですね。この出来事以降「撮影後にケチをつけない」という同意書を取るようになりました。
あと今でも鮮明に覚えているのが、僕が大失敗した「寿司の早握り選手権」。双方、多数の応援団を引き連れての勝負でした。どちらが速く約100皿分の寿司を握れるか、相手の寿司を食べて妨害できるかで現場は大白熱。僕も熱気に当てられ、1チームが全ての皿に乗せ終えたのを見届け、僕が「優勝ーー!!」と高らかに宣言すると、勝利チームの熱気は最高潮に達し、グワーッと地響きするほど大喜び。でも──。
「この皿、乗ってないです」
遠くにいたスタッフが、妨害され空いている皿を指さすんです。慌てて「見落としていました!」と言うけど、まったく耳に入らない。結果、彼らが喜んでいる間に相手が追い上げて逆転優勝しました。生まれて初めてですよ、床に頭をこすりつけて土下座したのは。それでも許してもらえなかったですけどね‥‥。
ギャル曽根やさかなクンなど、テレビの枠に収まりきれない「スター素人」の魅力を引き出したのも、中村の功績。特に愛すべきキャラクターで人気を博した大食い女王・赤阪尊子とは、こんなエピソードも。
ある年の大みそか、中嶋広文さんと神社で雑煮大食いの一騎打ち。2人とも命がけなのが伝わる食べっぷりで、赤阪さんは最後の一皿を食べた瞬間に感涙。僕も感極まり、赤阪さんの手を取り「優勝ーー!!」と思いっきり掲げた瞬間──。
〈ポエーーーー‥‥〉
何かが爆発する前兆のような謎の音が、赤阪さんから聞こえてきたんです。「何だ?」と思い彼女の顔を見ると、ものすごい勢いで鼻から雑煮が、ブリブリブリーッと噴出!
「ゆうじさん、揺らさないで。私たちは、食道まで使って食べているんだから」
そう教えられたのが印象的でした。周囲からは「半年で終わる」と言われていた番組でしたが、こんなに長く続くなんてね。もし復活するなら「シニアTVチャンピオン」をやってみたい。現場MCとして、シニアの熱き戦いを見守りたいですね。