リアルタイム映像の極致は、スポーツ中継番組である。ところが、手に汗握る展開の裏側に、さらなる緊張が待ち受けていた。
NHKの大相撲中継において、最強の解説コンビと呼ばれているのが、元横綱・北の富士勝昭氏と、元小結・舞の海秀平氏である。今年3月28日は北の富士氏の誕生日で、派手めのシャツで登場。
「今日の北の富士さんのシャツを着こなせるのは、もう北の富士さんしかいないですね」
舞の海氏のヨイショに、北の富士氏はピシャリ。
「バカにしているのか?」
恐縮しきりの舞の海氏だった。20年初場所では、大関昇進のメドとなる3場所合計の勝ち星を巡り、北の富士氏が舞の海氏に「(現役時代の番付が)下位の者にねえ」と釘を刺す。
最新版は名古屋場所中の7月10日のこと。照ノ富士が琴恵光を寄り切ると、こんな言い回しをした。
「琴恵光は何もできなかったね。されるがままですよ。お嫁に行った晩だね」
実況の藤井康生アナが「そんなものなんですかね」と平謝りに釈明すると、さすがの北の富士氏も「NHKではマズかったかな」と反省の弁を口にした。
取組自体がデンジャラスだったのは、00年5月13日のこと。幕内の朝ノ霧と千代白鵬の対戦で、朝ノ霧の緩んだまわしがほどけ、イチモツがあらわになってしまう。NHKスタッフの機転で全国中継の失態こそ免れたが、実に83年ぶり2度目の「チン事」は、世界にも打電。決まり手は「不浄負け」で、朝ノ霧の敗北となった。
ちなみに、この貴重なまわしは現在、マンガ家・やくみつる氏が所蔵しているそうだ。
プロ野球では今年6月2日、ロッテと中日の交流戦を愛知のCBCが中継。同局の榊原悠介アナは、解説の里崎智也氏と吉見一起氏を相手に「ロッテ新人時代の清田育宏」について熱弁を振るう。野球ライターが言う。
「実は清田はたび重なる不祥事で、放送の10日前にロッテから契約解除を言い渡されたばかり。それなのに清田話が延々と続いたので、ロッテOBの里崎氏も『まだこの話、広げますか?』と制止していました。番組に緊迫感が漂っていましたね」
19年11月12日、野球の国際大会である「WBSCプレミア12」(TBS系)では、いかにもIT時代たる事故が起きた。野球ライターが続ける。
「画面の下に『Hey、Siri、おやすみモードをオンにして』のテロップが表示され、それを読み上げる音声も流れたんです。おそらく、中継スタッフがiPhoneを使っていたのが誤作動したのではと言われています」
賛否両論の末に開催した東京五輪では、韓国MBCがたびたびやらかしている。開会式の各国入場で、ウクライナ選手団の紹介に「チェルノブイリ原発」の写真をかぶせ、ハイチ選手団の紹介には「大統領の暗殺で政局は霧の中」のテロップを表示。マーシャル諸島の紹介では「かつて米国の核実験場」と表現して国際的な批判を浴びた。
MBCは謝罪したものの、舌の根も乾かぬうちの男子サッカー・韓国対ルーマニア戦。オウンゴールを決めた相手選手に「ありがとう、オウンゴール」のテロップを出した。
さすがに悪ふざけも過ぎるとの声が広まり、MBCは報道本部長の辞任とスポーツ局長の役職交代に踏み切った。