筆者は高校時代、サッカー部に所属していた。したがって、社会人になってからも、脚力には多少の自信を持っていた。しかし、あの記者会見前の全力疾走はさすがに堪えた。それが99年6月17日、静岡県御殿場で行われた華原朋美の復帰報告会見である。
「明日、華原の会見があるから行ってきて」。デスクからの指示で、送られてきた案内状に目をやると、そこには御殿場にある乗馬クラブの名前が。そういえば高校時代、華原は乗馬で国体4位になったこともあり、現在も乗馬を趣味にしている、とは聞いていたが。とはいえ、よりによって、なんでまた御殿場の乗馬クラブで復帰会見なのか…。
会見から遡ること約1カ月の5月20日未明。華原は東京・江東区のマンション1階ロビーで倒れているところを発見され、緊急入院。会見はその復帰報告と7月に発売される新曲のPRを兼ねて、行われる予定だった。
さて、当日。事務所による事前説明では、華原が白馬(シュガー号)にまたがって現れ、報道陣の前でストップ。そして会見がスタートする、という段取りになっていた。
ところが何を思ったか、当の華原は報道陣の前を通り過ぎ、アッという間に彼方へ。各社、彼女を追って大移動となったわけだが、二日酔いもあってゼーゼー、ハアハア。そんな我々を尻目に、なんとも嬉しそうに白馬を操る、華原の少しむくんだ表情が、今でも目に焼き付いている。
しかもこの会見、驚いたのは登場シーンだけではなかった。小室哲哉との別離に触れた華原が、
「(小室とは)もう終わりましたから。2人でよく話し合って、もういいやって。辛かった時もあったけど、2人とも新しい恋人ができたから」
いきなり、新たな「恋人」の存在を明らかにしたのである。華原が言うには、新恋人はバーテンダーの男性だそうで、
「結婚しようか、結婚したいね、という感じ。今日はしていませんが、アンティークの指輪もいただきました」
なんと、結婚までほのめかしたのである。
この発言に最も驚いたのは報道陣よりむしろ、所属事務所関係者だったようで、結局、割って入ったマネージャーにより、当初15分を予定していた会見は5分程度で終了。
結果、この「突然の恋人宣言」によって、元気をアピールするはずだった乗馬での登場も、不自然な日焼けメイクによる演出も全てふっ飛び、さらに新曲のPRも満足にできないという、なんだかなぁ~の記者会見となってしまったのである。
ちなみに翌日の一部スポーツ紙には、くだんのバーテンダーの「プロポーズ?何のことですか。全く知らないし、そんな事実はありません」というコメントが掲載されていた。
その言葉に、いつか彼女の前に「白馬に乗った王子様」が現れることを願ったものだ。
(山川敦司)
1962年生まれ。テレビ制作会社を経て「女性自身」記者に。その後「週刊女性」「女性セブン」記者を経てフリーランスに。芸能、事件、皇室等、これまで8000以上の記者会見を取材した。「東方神起の涙」「ユノの流儀」(共にイースト・プレス)「幸せのきずな」(リーブル出版)ほか、著書多数。