タレントの壇蜜が自身のブログに書き込んだ「老後の不安」が共感を呼んでいる。壇蜜は9月16日の敬老の日にちなみ、自身が昨年、体調を崩したことに言及。
〈現在43歳の私。昨年心身不調により1年の30%以上を入退院に費やし、多額の治療費を使い(ついでに事務所が倒産するハプニングあり)、身内に散々心配&迷惑をかけた今思うことは、『元気で長生きって、かなり難しい』です〉
〈今後目上の身内たちを看取り、独りになったらどう生きるか、なんて考えたりもします〉
さらに9月13日のレギュラーラジオ番組「大竹まこと ゴールデンラジオ」(文化放送)では、魔除けとして玄関先に「大きな鈴を置いている」と、スピリチュアルな話題に触れている。
今年の旧盆明けのブログには〈一番怖くなること〉として、
〈年を重ねて感謝や謙虚の気持ちより先に、誰かのせいにしたり、みだりに権利ばかりを主張してしまう意地悪人間になってしまうこと〉
を挙げていた。
スピリチュアル系にハマッているのはちょっと心配だが、壇蜜の嘆きは実によくわかる。彼女は副業の不動産業だけでも推定800万円から1000万円の年収があると推定されるが、年収1000万円超の40代から60代の納税者は、この国で最も割に合わない健康保険料や社会保険料を搾り取られているからだ。
わかりやすく年収1000万円世帯を例にとると、健康保険料と介護保険料を合わせて額面の10%以上、110万円をむしり取られる。さらに税金と年金を払うと、手取りは700万円も残らない。介護保険料の支払いが始まる40代以上の現役世代は、収入の4割を税金と社会保険料で持っていかれる。
かといって、病気で入院したらしたで、高い健康保険料を払っているにもかかわらず、月額17万円から26万円(概算)の医療費自己負担が生じる。手取り収入600万円台で、医療費の自己負担分だけでも月額26万円、有名人がプライバシーを確保したり、病状によって個室を利用するとなると、月額50万円の入院費がかかる。それなりの不労所得や伴侶の固定収入があっても、闘病生活中は貯金を切り崩さざるをえない場面が出てきそうだ。
こう書くと「どうせ金持ちは医療保険に入っているじゃないか」と「意地悪ねたみ人間」がSNSやニュースコメント欄で噛みついてくる。こういうコメントを書き込むのは、医療保険ではカバーしきれない住宅ローンや家族の生活費を心配することもない「無敵の人」なのだろう。
そのくせ病院内には「タダ同然で湿布をもらいにきては権利ばかりを主張する」高齢患者だらけ。日頃、税金や社会保険料をむしり取られているのに社会保障の恩恵にあずかれない40代から60代ほど、ひとたび体調を崩すと、老後の不安や現在進行形の生活の不安を拭いきれない「負のスパイラル」に陥ってしまう。壇蜜のメンタルが本調子でないというより、高負担低保障の現役世代が抱える病理と言える。
この負のスパイラルからの脱却法は、ただひとつ。「健康で幸せな老後」なんて、生命保険会社が作り出した幻想だと諦観するしかない。
(那須優子)