サッカー日本代表の試合といえば、今では最強コンテンツのひとつになっている。もちろん1970年代から1980年代も、その試合は非常に人気が高かったが、代表人気を決定付けたのが、1992年10月29日から11月8日に広島で行われたアジアカップではないか。
筆者はこの頃から日本代表を取材するようになったが、大会前の盛り上がりはそれほどでもなかった。代表の公開練習があれば、今では数千人ものファンが殺到する。しかし、アジアカップ前の練習に集まったファンは、わずか数十人程度だった。
大会が始まっても大きな変化はなかったが、日本がカズの決勝ゴールで強豪イランを破ると、一気に火が付いた。
練習場には数百人ものファンが押しかけ、準決勝、決勝と進むにつれて、その数は倍増していく。11月8日の決勝でサウジアラビアを破り、初めてアジアの頂点に立った日の夜には、代表の宿舎となっていたホテルの周りにファンが殺到し、警備員が出動する騒ぎと化した。サッカーの取材をしていて、ここまでの熱気を感じたのは初めてだった。
この時、ホテルのロビーにいたラモス瑠偉と話す機会があった。
「これがスタートだよ。これからが本当の勝負だよ」
ワールドカップに向けて、ラモスは力強い言葉を放った。その言葉を聞いた筆者は「もしかしたら本当に、このチームはワールドカップに出場できるかもしれない」と胸の高まりを感じたものである。
(升田幸一)