全国各地で猫をテーマにしたイベントが日々、行われている。4月12日と13日に東京・浅草でやっていた猫好きの祭典「にゃんだらけ」に出かけてみた。場所は花川戸公園の隣りにある、産業貿易センター台東館。今回で18回を数える恒例の行事だ。
同館の4階と5階の一区画に約250のブースが並び、会場には猫の食べ物や様々なグッズが展示され、猫好きでごった返した。
もっとも一番の目的は、終末期のペットの緩和ケアについてのトークショー。4年前に最初に飼った我が家のジュテは、ガンでこの世を去った。ガンがわかってから48日間の闘病だったが、あの時はそれこそ病院との付き合い方からご飯をどうあげるか、最後の瞬間はどうするかまで、手探りだった。人間の緩和ケアはわかるが、猫の緩和ケアは…そんな興味で覗いてみたのだ。
ゲストは猫の往診医療をやっている獣医師で、「わんにゃん保健室」の江本宏平院長。都内を中心に、関東一円で出張診療を手掛けているという。
ガンになった猫の看取りなどの具体的な話は、短時間のトークということもあって詳しくは聞けなかったが、興味深いのは「猫の爪切り」だ。
これは自宅でやっている人もいる。知人のCさんは爪切りがとても上手で、拙宅に来た時には長兄のガトーの爪を切ってくれて助かっている。しかし、普段は深く切ってしまうのが怖いので、かかりつけの動物病院で切ってもらっている。
動物病院に行くのは、深く切るのが怖いからだけではない。ガトーは体重が約10キロあるので、健康管理のために常時、体重を計っておくことが目的だ。ガトーを連れて行く時は、末弟そうせきも一緒に連れていって爪を切る。真ん中のクールボーイは抱っこできず、掴まえるのが難しいので、爪切りに連れて行かないばかりか、爪を切ってあげたこともない。それがいいのか悪いのか。
江本医師によれば、猫の爪切り事情はこういうことだそうだ。
「多分、爪を切れるのは、病院に連れていける猫ちゃんです。病院に連れていけない猫ちゃんのほとんどが、爪を切れません。僕らの認識からしたら、爪を切れる猫ちゃんの方が珍しいです」
「へえ、そうなんだ」と思ってしまった。つまり我が家のガトーとそうせきは、珍しい部類の猫ということになる。そしてこう続いた。
「今、日本には800万匹くらい猫がいて、病院に行けてる数は多分、その10分の1じゃないか」
要するに、爪を切っていない猫が圧倒的に多いということになる。
こんなふうに思う人は多いはずだ。猫は爪研ぎをする、それで十分ではないのか。野良猫などはそもそも爪を切らず、爪研ぎしかしていないではないか。
要は飼い猫が爪切りをやりたいならやればいい、ということになるのだろうが、しかし、爪を切った方がいい理由はいくつかある。
猫が爪研ぎをするのは、伸びて尖がった爪を削るためではない。よく考えてみれば、尖がった爪は削れないし、無理やりやったら爪ごと剥がれそうだ。実は爪研ぎをすることで爪を削れるというのは間違いで、内側から伸びてくる爪を出すために、外側の古い層を剥ぐのが目的なのだ。そうやって、常に新しい爪が伸びる状態にするのだ。猫を飼っていると時々、外側の薄い爪の殻が落ちていることがあるが、それが爪研ぎで剥がれた爪ということになる。
ただし、爪研ぎが下手だったり、特に親指は他の4本と微妙に角度が異なり、うまく研げないことがあるのだとか。そのため、伸びすぎた親指の爪が肉球に刺さって、いわゆる巻き爪になる。これが猫にとってはものすごく痛くて、処置は大変だとか。そのためにも爪を切っておく、というわけだ。
そして、もうひとつの理由。猫の爪が尖がっていると、何かの折に人間が引っ掻かれる。出血することはしょっちゅうだ。それでバイ菌が入り、化膿するかもしれない。引っ掻かれた時は必ず抗生物質を塗っているが、要するに引っかき傷を作らないために爪を切るのが賢明、というわけだ。
切らずに爪研ぎだけでOKかもしれないが、個人的には切ってあげた方がいいと思う。心配なのはクールボーイだ。いつか無理やり掴まえてでも病院に連れていき、健康管理のついでに、一度は切ってもらおうと思っている。
(峯田淳/コラムニスト)