大谷翔平に「乗っかった」のは明らかだ。日本プロ野球選手会が4月21日に即刻、動きを見せた。大リーグで導入されている産休制度「父親リスト(パタニティー・リスト)」の創設を、日本野球機構(NPB)側に要望する方針を示したのだ。
ドジャースの大谷は真美子夫人の出産に立ち会うため、有給休暇となる「3日間の父親リスト入り」を利用。その間の試合を欠場した。これを日本でも導入しようというのだが、なぜ今になって…。
というのも、日本人メジャーリーガーでは2013年のブリュワーズ・青木宣親とブルージェイズ・川崎宗則を皮切りに、2018年にはドジャース・前田健太、2019年のヤンキース・田中将大と続き、2022年はパドレスのダルビッシュ有とカブス・鈴木誠也が「父親リスト」を活用しており、何度も提案のチャンスはあったはずだ。
「なのにこのタイミングでの要望というのは、大谷人気に便乗したと受け取られても仕方がないでしょうね」(スポーツ紙デスク)
一般社会では夫人の出産に立ち会うために有給休暇を取得するケースは今の時代、珍しくない。男性の育児休暇が認められる企業も増えている。ただ、プロ野球界では制度導入以前に、問題が横たわっている。NPB関係者が言う。
「日本には身内に不幸があった場合に使用が許される、いわゆる『忌引リスト』や『家族緊急リスト』のようなものはありません。シーズン中は親の死に目に会えない状況でもグラウンドに立つことが、美徳のように扱われる風潮がある。『父親リスト』を導入するならば、同時に『忌引リスト』なども創設しないといけないでしょうね。日本球界にはそうしたリストがないため、出産や冠婚葬祭のため出場選手登録が抹消されれば、登録数が1人減る。優勝争いの最中であれば、当事者の選手が休みづらくなるのは間違いないでしょう」
ちなみにメジャーリーグでは、「父親リスト」で欠場する選手の代わりに、その期間のみ、別の選手をメジャー登録することができる。
プロ野球選手は一般的に、個人事業主として各球団と契約を結んでいる。当たり前だが、個人事業主に有給休暇はない。もし「父親リスト」などが認められても、本来なら欠場試合分の年俸を支払う義務は、球団には発生しないことになる。
「今、世間では大谷の名前が水戸黄門の印籠のようになっているが、そこまで彼に背負わせるのもいかがなものですかね」(スポーツ紙遊軍記者)
そんな声が出ても仕方がないのである。
(阿部勝彦)