大谷翔平とアーロン・ジャッジ。ア・リーグとナ・リーグ、東海岸と西海岸の本塁打王が直接対決するワールドシリーズなのに、ジャッジは3試合を終えた時点で12打数1安打、打率8分8厘、7三振と絶不調。大谷は第2戦の盗塁失敗の際に左肩を亜脱臼と、揃って「予期せぬアクシデント」に見舞われている。
ジャッジはカリフォルニア州生まれ。大学野球の名門カリフォルニア州立大学フレズノ校出身だ。野球少年だった頃は、カリフォルニア州を本拠地とするドジャースやエンゼルス、パドレス、ジャイアンツ、アスレチックスの試合を見ていただろうから、ドジャースタジアムでの激しいブーイングは辛いものがあろう。
西海岸育ちのジャッジが東海岸の名門ヤンキースに、2013年ドラフト1巡目指名で入団したのにも「秘密」がある。
ジャッジは生まれた翌日、カリフォルニア州オークランドの産院からセントラルバレーの教員夫妻に、養子に出された。10歳の頃、肌の色も恵まれた体格も両親とは似ていないことに疑問を持ち、初めて両親の口から「養子」であることが明かされたが、その後は二度と自分の出自について聞いたことはないと、ニューヨーク・ポスト紙に語っている。
日本人で初めてヤンキースに入団した伊良部秀輝投手も同紙に「伊良部は在日米軍の軍人だった父親と生き別れになっている」と報じられたのがきっかけで、すでに他界していた実の父親に代わり、アメリカ在住の叔母が名乗り出てきた。国籍すら不明なジャッジの実の親もまた、世界の片隅で、立派に成長した息子の姿を見ているのだろうか。
今季58本塁打、144打点を記録したジャッジは満身創痍。昨季シーズン開幕直後、4月27日のツインズ戦で三塁にスライディングした際に右股関節を痛め、故障者リスト入り。ようやく復帰できたと思ったら、6月3日のドジャース戦で、右翼フェンスに激突しながら捕球したファインプレーの際に、左足指の靱帯を断裂してしまう。
回復を促進する多血小板血漿(PRP)注射治療を続けながら約2カ月間、42試合の欠場を余儀なくされた。この時に断裂した靭帯は完治しておらず、最低気温6度のニューヨークの冷気は、ジャッジの両足を容赦なく蝕んでいく。同じく走塁失敗で負傷した大谷に対し、
「球界最高の選手があんなふうに負傷するのを見るのは辛い。盗塁ではああいうことが起きてしまうからね。大谷が無事であるという、いいニュースを願っているよ。誰かがケガをするのを見るのは本当に辛い」
そんな気遣うコメントを出したのは、大谷には自分と同じように苦しんでほしくない、というジャッジの優しさゆえだろう。
右足首捻挫で手負いのドジャース主軸フリーマンは今年、感染症がきっかけで死の淵を彷徨い、歩行リハビリ中の愛息・三男マックス君のために「MAX弾」を放つと公式SNSで誓った。事実、第1戦ではワールドシリーズ史上初の逆転満塁サヨナラ弾を含め、3試合連続で本塁打を記録している。
両軍のスタメン選手に「野球漫画超え」のドラマがある今季のワールドシリーズ、ジャッジも大谷も、まだまだ魅せてくれるはずだ。
(那須優子)