トランプ政権が日本に求めるのは、中国に対する「不沈空母」化である。1988年からの8年間続いたレーガン政権。当時の「ヤス」の立場に当たるのが、安倍晋三総理(62)というわけだ。
昨年11月10日には、当選直後のトランプ氏と電話会談を、17日には直接会談を実現し、両者の距離を急速に縮めている。
「不沈空母」復活のためには、両国政権のスタッフの人的関係がむしろ重要である。トランプ氏が、レーガン政権時代の人物を登用していることは前述通り。これに合わせるように、日本では自民党・旧清和会系の老獪な永田町の主たちが、当時交友のあった元レーガン政権のスタッフと関係を密にし始めた。そのコネクションは、安倍政権に受け継がれていくことであろう。
ところでトランプ政権は「100日計画」を発表しているが、約3カ月の間に、日本も目まぐるしく動くことになる。その一つが公約にあるTPPからのアメリカ撤退だ。
現在日本では「TPPがなくなると、中国の経済主導力が高まる」という、驚愕すべき主張がある。これこそ「無知の暴論」とも言うべきものだ。
すでにトランプ政権は中国に対して、これまでの20%から、最大45%の関税を課すことを明言している。それは中国の経済圏にも課せられる。一方で、アメリカは法人税の引き下げを明言している。また、トランプ氏はたとえ米国企業の生産物であっても、海外で作ったものに対して35%の関税をかけることを公言している。もはや中国など諸外国を「生産国」にするメリットはなく、続々とアメリカに生産工場が戻ることになるのだ。
現実的にトランプ氏の要請に対してアップルのCEOは、アメリカでの生産に首を縦に振った。また、1月3日には、フォードがメキシコでの新工場設立を白紙にしている。
日本企業も、これまで以上に、アメリカでの現地生産という形でのビジネスが拡大することになる。同時にそれは金融中心の経済構造から、製造業中心の経済構造への転換を意味している。「国民車」などで高度経済成長期を牽引した「通産省」のように、経済産業省は、官僚人事も含めて大変革を迫られそうである。
また、安全保障の面でも大きな変化が起こることになるだろう。現在、トランプ政権は台湾との関係を急速に密にしており、日本の尖閣諸島から台湾東部海域を経由する、「第一列島線」での中国との軍事的緊張は、さらに高まるだろう。昨年12月15、16日に行われた安倍-プーチン会談を象徴とする日ロ急接近も、トランプ政権の対中戦略に併せたものと考えられている。日本としては北側の安全保障を外交によって高めれば、「第一列島線」に集中できるからだ。
無血革命で、アメリカは日本に「旨み」を用意している状態だ。これをチャンスとするか問われているのが「今この瞬間」である。今年こそを、日本経済復活元年としなければならないのだ。
経済評論家・渡邉哲也