多くの人にとって気になるのは、「日本がどうなるのか」という点であろう。これまでオバマ政権でも、「知日派」「親日派」と呼ばれる人物が重要なポストに就いたが、アメリカが日本より中国に顔を向けてきたのは事実である。トランプ政権においては、すでに日本を“救った”人物が副大統領となる。その人物こそ、マイク・ペンス氏(57)だ。
ペンス氏は、インディアナ州の知事であった。同州にはアメリカ最大のトヨタの工場がある。トヨタとアメリカと言えば、09~10年にかけて発生した「大規模リコール問題」が記憶に新しい。09年8月にレクサスが暴走し、4人が死亡する事故に端を発したものだ。その翌年には、集団訴訟が起きるのだが、この「トヨタ戦争」の背後には、韓国のロビイスト代表を務める議員が介在していたのだ。この後、韓国の自動車メーカー「ヒュンダイ」の北米販売台数が、急激に伸びている──。
12年には、トヨタがインディアナから関連企業を含めた撤退さえ示唆したこの問題は、共和党所属議員がトヨタを守ることで収束した。ペンス氏が、問題の爆心地であるインディアナ州知事になったのは13年。何度も来日し、日本企業誘致に励んだ実績もある。就任翌日には、日系企業を誘致したいという名指しのラブコールを送っている。
ペンス氏の下には、商務長官として、投資家のウィルバー・ロス氏(79)が就く。ロス氏は“知日派”と呼ばれているのだが、90年代のバブル崩壊後に、続々日本に舞い降りた「ハゲタカ」の一人。99年には破綻した幸福銀行を買収したという意味でも「知日派」だ。今回は中国から「むしる」ための登用であろう。
トランプ政権が、しばらく世界経済で影響力を強めていた中国と、完全に対峙することはこれらの陣容から見ても明らかである。いわば2017年は米中経済戦争開戦元年となる。その構造の中で、日本の役割はどうなるのだろうか──ナヴァロ氏はレーガン政権時代の「力による外交」を明言している。当然、日本の役割も当時と同じ状態になる。
歴史を振り返ることこそ、今後の日本がわかる最良の手段であろう。
当時、カウンターパートを務めた日本の総理こそ中曽根康弘氏(98)。レーガン大統領とは、「ロン」「ヤス」と呼び合う仲だった。冷戦構造下にあって、日本は当時のソ連の軍事力に対する壁──「不沈空母」としての役割を担っていた。自動車など製造業を中心とした経済構造で、輸出先は主にアメリカ。GDPは拡大し、生産性向上の必要性から、日本専売公社、日本国有鉄道および日本電信電話公社の三公社を民営化した。
対して現在ではグローバリズムの名のもとに、貿易の相手もまさに「グローバル」である。製造業より、金融経済の比率が大きくなっている経済構造でもある。
時計の針を逆に戻すには、政治の力が必要だ。
経済評論家・渡邉哲也