こんな声もあった。
「家の賠償をしてもらったが、働けないので生活費に使ってしまった。どうにかならないか」
事故によって職を失った場合は、2015年2月まで、就労不能損害という賠償があった。その後も、避難生活などで病気にかかった場合などは、賠償がされている。この男性の場合は、事故前から働けなかったのだろうか。
その場合でも、精神的損害として、月10万円が賠償されているが、確かにそれだけでは生活費には足りないだろう。
「子供が生まれました!」
なぜ出産を報告してくるのか。最初はビックリした。避難者が授かった子供にも月10万円の精神的損害が賠償されることを知ったのはそのあとだ。故郷を離れて過ごさざるをえないのだから当然かもしれない。
こんな重要なことが、講義ではひと言も触れられていなかったので、本当に驚いた。1人の被災者を新たに登録することになるので、かなり大変な作業だ。必要なことを聞き漏らして、こちらから電話するということが何度もあった。「ご出産おめでとうございます」と余裕を持って言えるようになったのは、5度目くらいだ。
少子化の時代に新生児が生まれるのはいいことに違いない。それにしても出産報告の電話はかなり多い。
避難指示区域内であっても、賠償の実態はそれぞれ異なる。誰もが「賠償御殿」を建てるわけではない。
そして電話は、避難指示区域外に住んでいた人からもかかってくる。
「いわきに家を建てるために土地を買い、2011年5月に地鎮祭をする予定だった。3月11日の原発事故で土地が汚染されて使えなくなった。売ろうと思っても自主避難地区だということで、不動産屋も扱ってくれない。ずっと賃貸で暮らしているが、賠償されないから自腹だ。5年前の報道では、自主避難地区も賠償すると書いてあった。ちゃんと賠償してほしい」
福島県の東側の市町村と宮城県の丸森町は、自主避難区域とされている。ここに住む住民にも、2回だけ賠償がなされた。
1回目は、妊婦と子供には、避難しない場合は40万円、避難した場合は60万円、大人は一律8万円。2回目は、妊婦・子供に12万円、大人4万円。
避難しなくても賠償されるのだから、自主避難地区の名称の意味は、まるでわからない。福島刑務所で事故当時、服役していた人にも賠償がある。出所後の元受刑者からの電話も受けた。
妊婦と子供への賠償額が多いことについては、「妊婦や子供は放射能に恐怖を抱く合理的理由があるから」と記されている。
「賠償に放射能は関係ない」などと、とんでもないことを言われたが、やはり関係あるのだ。当たり前である。それなのに避難指示はされていないから、宅地建物への賠償は行わないというわけなのだ。
この電話を受けた時は、ベテランからの指示で、「あなたの求めている賠償には応じられません」と応答した。相手は激怒。求められるままに、私は氏名を明かした。
南相馬の自宅の区域が、避難指示解除になったという女性から電話があった。
「孫は小学4年生だし、町の線量計で測るのと自分の線量計で測るのとで数値が違う。イノシシも跋扈してるし、とても帰ることはできません」
放射性物質がまき散らかされたあとに、避難指示が出された。その当たり前のことを東電は認めるべきだろう。
深笛義也(ジャーナリスト)