亡くなった配偶者との関係を全て断ち切りたい──。最近、亡夫との関係を終了する「姻族関係終了届」=「死後離婚」が増えている。その数は10年前の2倍以上。死者にムチ打つ非情には驚くばかりだが、その背景には、残された義理の両親の介護や、これまでの夫婦関係のもつれが要因としてあった‥‥。
姻族関係終了届──いわゆる「死後離婚」のことである。あまり聞き慣れない言葉だが、芸能界でもこれに当てはまることがこの夏に起きている。元SPEEDの上原多香子のケースがそうだ。
夫のTENN氏が自殺してから3年。上原は夫の死後も彼の本名の森脇を名乗っていたが、今春、新恋人との熱愛が発覚。新恋人と上原は結婚に向けて動いていて、上原が突然、籍を抜きたいと言いだした。
「その申し出に怒った遺族側は、TENN氏の遺書を公開するなど、抜き差しならぬ関係に発展しました。そもそも夫が自殺した理由は“上原の不倫”にあったのだと‥‥」(芸能記者)
これまで家庭を顧みず、両親のことは妻に任せっきり。自分にもしものことがあったら、はたして妻は、父や母の面倒を見てくれるだろうか‥‥。そんな不安が脳裏をかすめた読者も少なくないのではないか。
離婚問題アドバイザーの露木幸彦氏が言う。
「血のつながっていない親戚関係のことを法律上『姻族』と呼びますが、夫と死別した場合は、死別と同時に消滅するわけではなく、『姻族』のまま残る。もし、義理の両親との関係を完全に断ち切りたいなら『姻族関係終了届』を提出することで、正式に夫の両親との縁が切れます。法務省の統計によると『姻族関係終了届』の届出件数は10年前と比べて2.1倍も伸びており、夫の親戚とのしがらみを断ちたいという妻が増えているのが現実です」
鈴木陽子さん(58)=仮名=も、最近「姻族関係終了届」を提出したばかりだ。
「夫の母親を介護しなくてよくなったので、娘も私もずいぶん楽になりました」
そう安堵の表情を浮かべる陽子さんは、結婚生活28年のうち、15年間を夫の母親と同居してきたが、遊び好きで亭主関白の夫に振り回され続けてもきた。
「私が正社員で働いていて安定した収入を得ているのをいいことに、夫はキャバクラやパチンコなどで散財を繰り返し、生活費を入れてくれない月も多かったんです。そんな時に義母が脳梗塞で倒れ、後遺症で体の一部に麻痺が残った。子供だけでなく、義母の面倒も見なければならなくなったのがちょうど3年前です」
仕事と家事と介護に追われる日々。そんな時、夫にガンが見つかり、あっという間にこの世を去った。陽子さんは未亡人となり、娘と義母との3人の生活が始まる、と思われたが──。
「夫の遺産はほとんどありませんでした。なので今後も義母の介護費用など、全て私の収入から負担することになります。これまで夫にさんざん振り回され、あしき思い出が詰まった家のことを思い浮かべると、これ以上、亡き夫に義理立てする気にはなれませんでした」
陽子さんは義母の世話を義弟に任せて、娘と一緒に家を出た。そして役所に「姻族関係終了届」を提出し、夫の実家とは完全に縁を切ったのである。
このように、届けが出されるのは、生前から夫との関係が悪化していたというケースが多い。
「夫が浮気をしていたり、お金を使い込んでいたり、妻や子供に暴力を振るっていたり。そんな夫に対して恨みを持っていた場合が多いですね。また、父親と息子の性格は似ていますから、亡くなった夫と似たような性格の両親の面倒を見ることに抵抗を覚えてしまうのです」(前出・露木氏)
監修/離婚問題アドバイザー・露木幸彦