厚生労働省の調査で、2016年度の日本人の平均寿命は女性87歳、男性80歳で、いずれも過去最高を更新したことがわかりました。前年度に比べて男女とも0.1~0.2歳ほど延びています。
世界各国の平均寿命を比較すると男女とも香港の女性87歳、男性81歳がトップで日本が2位となっています。長寿国全般の傾向として、女性のほうがより長生きをしています。その他の長寿国を見ても、スイス(女性85歳・男性81歳)、シンガポール(女性86歳・男性80歳)と、男性の平均寿命のほうが短いのです。
平均寿命の短い国は、中央アフリカ(女性54歳・男性50歳)、アンゴラ(女性54歳・男性50歳)とアフリカ諸国が多く見られます。栄養バランスや医療制度が整っていない地域でも、男性は短命で、世界の平均値も女性73歳、男性69歳(WHO・世界保健統計16年度版)となっています。
さて、男性より女性のほうが長生きである最大の理由は「体形の違い」でしょうか、「ライフスタイルの違い」でしょうか。
そもそも、日本人が長寿である大きな理由は2つです。脂肪分の少ない和食やビタミンCが含まれる緑茶を好むため栄養バランスが優れていることと、医療制度が充実していることです。特に医療制度や保険制度の充実により金銭的な負担をせず治療を受けられることが大きく、諸外国のように医療費が全て自費だと、これほど長生きはできないでしょう。
企業に年1度義務づけている定期健康診断や人間ドック、がん検診など精密検査の体制が整っていることも、長寿国である理由と言えます。胃ろうのように、口から食事をできなくなった人に胃から直接栄養を与えるなどの医療措置が整ってきたことも、平均寿命が延びた理由でしょう。
では、なぜ女性のほうが長生きできるのでしょうか。理由はいくつかありますが、最も大きな要因はホルモンにあります。生物学的に10代から妊娠・出産が可能になる期間が30年ほどある女性は、男性より老化のスタートがかなり遅いのです。また、男性ホルモンに比べ女性ホルモンのほうが高血圧や高コレステロール血症を抑えてくれるのも理由の一つでしょう。つまり、ホルモンが寿命を大きく左右しているのです。
近年、中高年男性に起きているうつ症状、睡眠障害、メタボリック症候群、認知症などと男性ホルモンの関係が盛んに研究されています。その中でも、男性ホルモンの代表である「テストステロン」の低下で、全身にさまざまな症状が起こると言われています。男性ホルモンを補充することで、こうした症状が改善するとも言われています。
現在では、そのテストステロンを体内に直接注入する治療が、男性更年期の治療法としても認められるようになっています。
また、男性に比べて女性は体が小さいため、エネルギー消費が少なくて済みます。体に脂肪をためることができるので飢餓状態になりにくいのも理由の一つであり、「体形の違い」こそ最大の理由と言えます。
加えて、男性は飲酒喫煙が多いことや、「3K」と言われる危険な仕事に従事する可能性が高いことなどもあげられます。
日本における過去100年の男女別出生率を見ると、女性100に対して男性は105前後で推移しており、やや高めです。また、戦死により男性が少なくなった太平洋戦争後の10年を見ると、出生率は女性100に対して男性106と伸びました。不思議なもので、戦争や飢餓などがあると妊娠率が高まり、男性の出生率が増える傾向にあります。このあたりは「神秘的な天の差配」かもしれません。
■プロフィール 秋津壽男(あきつ・としお) 1954年和歌山県生まれ。大阪大学工学部を卒業後、再び大学受験をして和歌山県立医科大学医学部に入学。卒業後、循環器内科に入局し、心臓カテーテル、ドップラー心エコーなどを学ぶ。その後、品川区戸越に秋津医院を開業。