3月10日、ピン芸人日本一を決める「R─1ぐらんぷり2019」(フジテレビ系)が放送された。「R─1」は、お笑いショーレースの「M─1グランプリ」、「キングオブコント」と並ぶ大タイトル。この数年、優勝者が必ずしもブレイクするとは限らないものの、芸人たちの真剣勝負への注目度は高い。
お笑いファンの中で、この3大タイトルに次ぐ支持を集めているのが、13年からスタートした、「歌ネタ王決定戦」(MBS)だ。
「関西ローカルでの放送のため、全国的な注目度はそこまで高くないものの、緊張感漂う3大タイトルとは違い、番組は音楽ネタの持つ軽妙でライトな雰囲気そのままに“明るく楽しく純粋に楽しめる”と、ファンはもとより出場芸人たちにも好評。業界視聴率の高さでも知られています」(放送作家)
だが、この大会が初めて開催された13年、歌ネタのレジェンドともいうべき一人の芸人が、寂しくこの世を去っている。「あ~あ~あ、やんなっちゃった」のフレーズに社会批評を乗せて歌う、“ウクレレ漫談”の牧伸二さん(享年78)である。同年4月29日、牧さんは多摩川で投身自死と見られる衝撃的な死を遂げたのだ。
「99年、牧さんは浅草を中心に活動する芸人たちの任意団体『東京演芸協会』の会長に就任し、会員たちのために働いていましたが、牧さんが管理していた500万円以上の協会の資金の行方が不明になり、協会内から牧さんを追及する声が上がっていたといいます。牧さんは500万円を用意し、事の経緯を4月28日の理事会で説明をする予定だったといいますが、連絡がないままこれを欠席。翌日、東京大田区の橋から転落死を遂げていたことがわかりました」(お笑い関係者)
30日に行われた緊急理事会のあと、協会は「牧会長の使い込みの噂はあったものの、事実ではないと信じている」と、牧さんの名誉を汚すことのないよう配慮された浅草芸人らしい“粋なコメント”が発表された。
ともあれ、牧さんが存命であれば、いやになっちゃうことばかりの今の日本社会を、あのフレーズに乗せてどう批評したのか-。聞いてみたかったものだ。
(露口正義)