テリー そんな強靱な小橋さんに腎臓ガンが見つかった時は驚きましたよ。
小橋 あの時は「なんで俺が?」と、頭が真っ白になりました。06年に健康診断のエコー検査で腫瘍が見つかったんです。
テリー 特に予兆はなかったんですか。
小橋 ふだんはまったく風邪をひかないんですが、その年はなぜか風邪をひきやすくて、治ったと思ったらすぐぶり返す、みたいな感じだったんですよ。だから、妙な感じがしたら単なる風邪の症状でも、念のため病院に行ったほうがいいと思います。
テリー さすがの小橋さんも、ここは治療に専念するしか‥‥。
小橋 本当は試合に出るつもりで、「試合に出てもOK」と言ってくれる病院を探したんですよ。でも、セカンドオピニオンを聞いたら「もし腎臓が破裂してガン細胞が散らばったら、手遅れになる」と説得されて、手術することにしました。
テリー そんな状況で、よく1年半で復帰できましたよね。
小橋 手術前日の夜、主治医に「腎臓ガンから復帰したアスリートは今までいない。まずは生きるところから考えましょう」と諭されたんですが‥‥なんとかもう一度、1試合だけでもリングに戻りたい。そういう気持ちでしたね。
テリー まさに前人未踏のチャレンジだった。
小橋 はい。体重も20キロ以上落ちていましたから、まず筋肉を戻さなきゃいけないんですけど、筋肉のもとになるタンパク質って腎臓によくないらしいんですよ。主治医に「タンパク質を摂らずに筋肉をつけるトレーニング法はありませんか」と聞いたら、「そんなことする人、今までいないから知りません!」と怒られてしまいました(笑)。
テリー さすがだなァ。となると、復帰戦はさぞかしグッときたんじゃないですか。ファンも涙で迎えましたし。
小橋 不思議なもので感傷的にはならなかったです。リングへの花道を見た瞬間に、「さあ、勝負だ!」と闘病前の気持ちにすぐ戻れたんですね。
テリー 最近のプロレスもチェックされているんですか。
小橋 日テレG+(CSのスポーツ専門チャンネル)でレギュラー解説をやらせていただいていますから。そこは本当にテリーさんに感謝しているんです。覚えていますか、僕の引退パーティーで挨拶をお願いした時に「小橋に仕事をあげてください」とおっしゃったことを。
テリー もちろんですよ。小橋さんはいい人だけど、不器用でね。とても世渡り上手には見えないから、本気で心配してあの言葉が出たんです。
小橋 アハハハ。あれはみんなに「感動した」と言われました。普通の引退パーティーだと、もっと当人を持ち上げるようなことを言うのが当たり前なのに、テリーさんは歯に衣着せず、僕に対する不安をズバッと言ってくださったんですよね。あれは身が引き締まりました。
テリー 挨拶のあと、何人かに「よく言ってくれた、小橋のことを本気で応援してくれてありがとう」と声をかけられましたよ。
小橋 あの言葉が、今の自分の仕事のあれこれにつながっていると思います。本当にありがとうございます。
テリー いやいや、小橋さんの不屈の精神なくして、それは成しえなかったんだから。今後も健康に気をつけて、頑張ってください。
◆テリーからひと言
スポーツジムの経営や講演会で忙しそうで、小橋ファンとしてはうれしいかぎりだ。無理してほしくはないけど、ぜひ第2の小橋、「王道プロレス」の後継者も育ててほしいな。