テリー よく聞かれる話だとは思いますけれど、今後リングに復帰する意志はまったくないんですか。
小橋 自分の中ではケジメがついていますから。やりきって引退したので、復帰は120%ないです。そもそも、リングに上がって皆さんを満足させられるパフォーマンスが可能だったら、そこでやめていないですからね。
テリー 実に小橋さんらしい言葉だね。例えば、自分でプロレスラーを見つけて育ててみたい、なんていう気持ちはありませんか。
小橋 そういう声が上がれば、今のジムで人材を集めてもおもしろいのかな、とも思います。20代前半ぐらいの体の大きい若者が練習しているのを見かけたら「(プロレスを)やってみないか」なんて声をかけたりはしていますよ。今は、体の大きな人はみんな違うスポーツに行っちゃいますからね。
テリー 最近のプロレスはエンターテインメント性を強めた内容も多くなってきて、小橋さんの時代のものとはまた違ってきていますしね。
小橋 プロレスに追い求めるものが個人個人によって違いますから、エンターテインメント性も否定はしません。ただ、自分が追い求めたプロレスを若い人たちに受け継いでほしい、という気持ちはありますよね。
テリー 具体的にはどういうプロレスですか。
小橋 ジャイアント馬場のプロレスです。馬場さんのプロレスを見て、デカくて強い男への憧れを感じましたし、僕に父親がいなかったこともあり、その面影を重ねて見ていました。
テリー 結局、馬場さんとはどのくらいのおつきあいだったんですか。
小橋 全日本プロレス入門から99年に亡くなられるまでですから、12年ぐらいですね。
テリー そうか、意外と短いんですね。
小橋 僕が全日本プロレスに入門してまだ4カ月くらいの頃、馬場さんの付き人になったんです。
テリー いきなりの大役じゃないですか。それはまたどうして?
小橋 当時の馬場さんの付き人が、馬場さんの前では仕事するんですけど、他はまったく何もしなかったんですよ。それに(ザ・グレート・)カブキさん、渕(正信)さんといった先輩方が激怒して、「あいつの代わりにお前がやれ!」と言われまして。今でも覚えています、巡業先だった北海道の函館のホテルで挨拶にうかがったんです。
テリー うわー、それは緊張するよね。まだプロデビュー前の新人なのに、憧れの人の近くにいられるんだから。
小橋 そしたら「なんでお前が俺の付き人をやるんだ。出ていけ!」って言われたんですよ。
テリー えぇっ、どうして?
小橋 馬場さんは、前の付き人をかわいがっていたんですよ。それなのに、自分の意志とは関係ないところで交代させられたことに腹が立っていたんだと思いますね。「帰れ!」とどなられました。
テリー それで、どうされたんですか。
小橋 「よろしくお願いします!」と頭を下げて、食い下がりました。そこから「帰れ!」「よろしくお願いします!」の応酬が続いて、余計に馬場さんの怒りが増していったのか、試合でも見せたことがない、鬼のような形相になって。
テリー あの温厚な馬場さんが‥‥。
小橋 それから4カ月間、僕は馬場さんに口もきいてもらえなかったんです。