新型コロナウイルスの蔓延により緊急事態宣言が発令された4月7日。「事実は小説よりも奇なり」と口にする人も増えているが、その一方で伝染病の蔓延をテーマにした小説もまた人々の注目を集めているようだ。
Amazonのランキングではカミュが1947年に著した「ペスト」が2位に、1964年に小松左京が発表した「復活の日」が56位にランクイン。1995年にジョゼ・サラマーゴが発表した「白の闇」は失明に至る伝染病をテーマにしており、まだランクインには及ばないものの3月5日に文庫版が発売されている。そしてわずか10年前に書かれた高嶋哲夫の「首都感染」も13位と広く読まれているのである。
「この『首都感染』では中国で強毒性インフルエンザが出現し、首相が東京封鎖を決断するという内容がまさに現在のコロナ禍を予言しているとして、大きな注目を集めています。しかも同書が刊行された翌年には、その映像版とも言える映画が制作され、そちらはさらに予言性が高いと、これまた話題になっているのです」
その作品とはNetflixで配信されているパニック映画の「コンテイジョン」だ。“伝染”を意味するタイトルの本作は、香港でコウモリを感染源とする謎のウイルスが発生したというストーリー。前出の「首都感染」でもウイルスの発生源を中国に設定しており、時代設定の近さが正確性を担保しているといえるかもしれない。
詳しいストーリーはネタバレになるため伏せるが、「コンテイジョン」にはWHOの職員が登場するなど、その内容はまるで9年後の現在を見てきたかのようなトレースぶり。すでにNetflixの映画ランキングでは1位となっており、「すごいからあなたも観たほうがいい」と力説する人も多いという。
「これらの作品に対して、同じく感染爆発を素材にした1995年のハリウッド映画『アウトブレイク』は、アフリカから密輸されたサルを感染源とする伝染病がアメリカで広まるというもの。これがエボラ出血熱をイメージしているのは明らかで、90年代当時には《未知のウイルスは未開の地からやってくる》という共通認識があったのかもしれません。それこそ『復活の日』では宇宙空間で採取された未知のウイルスにより人類が滅亡しますし、時代を経るごとに感染源はより身近な国々へと移り変わってきたようです」(映画ライター)
そしてついに日本でロックダウンが実行された今日、もはや事実を超える伝染病小説を書くのは難しくなってしまったのかもしれない。
(金田麻有)