日本だけでなく世界でもファンの多い俳優・千葉真一さんが8月19日、新型コロナウイルス感染により亡くなった。最後までワクチン接種を拒否し、82歳にしては頑丈な肉体も、未知の病には打ち勝てなかった。
さて、千葉さんは、ドラマ・映画を通じて代表作がいくつもあり、死と隣り合わせの危険なアクションも多かった。出世作となった「キイハンター」(68~73年、TBS系)では、こんな場面があったことを自身が明かしている。
「走っている車を減速させながら、セスナ機に飛び移ろうとするシーン。さあ、車の窓からセスナの羽根にしがみついたと思ったら、僕の足が車のハンドルに引っかかって抜けなくなったんですよ。抜かなくちゃ、抜かなくちゃと神経が足に集中するものだから、よけいに固まって抜けない」
中途半端な状態のまま、生と死の狭間を迎えた。
「ああ、この高さでコンクリートに頭から落ちたら死ぬな…と覚悟しました。そしたら、それで自分の足から意識が消えたんだろうね。足がスコーンと抜けて、セスナに飛び移ることができたよ」
千葉さんの口ぐせは「自分は柳生十兵衛の生まれ変わり」だった。そのため、ドラマ「柳生あばれ旅」(80年、テレビ朝日系)、映画「柳生一族の陰謀」(79年、東映)、「魔界転生」(81年、東映)と、何度も演じるほどの当たり役となった。特に東映12年ぶりの本格時代劇として大ヒットした「柳生一族の陰謀」は、千葉さん自身の原案が映画化されたほどだ。ただし、代償も大きかった。
「十兵衛は左目に刀の鍔の眼帯をするから、どうしても右目に負担がかかってしまう。何度か演じたある日、突然、視界が暗くなって見えなくなってしまった。今は右目に人工レンズを入れているんですよ」
壮絶な昭和の役者秘話である。
(石田伸也)