シーズンオフになると「今年こそ現役引退か?」と噂が囁かれるプロゴルファー・ジャンボ尾崎。シニアツアーへの出場を頑なに拒み、レギュラーツアーでの現役にこだわる姿は、まさに孤高のオーラをまとった“ゴルフ界のカリスマ”だ。
それだけにこれまで、「ジャンボ尾崎の本は絶対できない」と言われてきたが、そんな通説を覆した本がこのほど上梓された。
ジャンボ尾崎が初めて「公認」した書籍「誰も書けなかったジャンボ尾崎」(主婦の友社)である。著者はジャンボ軍団のプロフゴルファー・金子柱憲プロだ。
「長年、俺や軍団を見続けたお前ならいいよ」
ジャンボについての書籍を執筆したいという金子プロの思いに、ジャンボはそう言って応えてくれたという。
「今までに何度かそのような試みをした方はいたようでしたが、ジャンボの承諾を得ての出版には至らなかったそうです。この本はジャンボ尾崎氏の最初で最後の本になるでしょう」(金子プロ)
同書には〈ジャンボの教え〉が満載である。
「勝負にこだわらなければ、競技者でない」と語る通算113勝、賞金王12回の勝負師としての〈教え〉。「良い球が出るのが良いスイング」というゴルフの基本的思考法に始まり、2021年全米女子オープンを優勝した笹生優花やツアー4勝目を挙げた原英莉花、そしてルーキーシーズンに大活躍した西郷真央など、ジャンボチルドレンへの〈教え〉。
さらに言えば、尾崎建夫、尾崎直道、飯合肇、東聡、川岸良兼ら40年以上途絶えることがない、その普遍的なジャンボの〈教え〉を、金子プロが、選手や裏方、ファミリーなど数々のインタビューを重ねてひもといている。
そして、ジャンボと金子プロとの対談も掲載されている。一部を抜粋すると─。
金子 試合で精神的に不安に思うことはありますか?あるとすればどんなことですか。
ジャンボ 人間である以上、不安は持つものである、それを補うものは勇気であり、緊張感であると考える。これが、本当にやれるかが、ゲームの醍醐味で楽しいときでもあるんだよ。
金子 ジャンボ尾崎ゴルフアカデミーの子供たちを見て思うことは何でしょうか。
ジャンボ とにかく、私の持っている環境を十二分に利用してもらいたい。それだけ。
金子 子どもたちへ視線が優しく見えるのですが、僕の気のせいでしょうか。
ジャンボ 子供の夢は純粋で、誰にも邪魔できない。しかし、目的意識のはっきりした今では自分自身の目標をしっかりクリアしてもらいたい。自分が一生懸命努力することができれば、長い人生、ゴルフ以外のことでも頑張れるようになるはず。
金子 伸びる選手とは、どんな選手と考えますか。
ジャンボ しいて言えば、何事も前向きに考える人間だな。運や縁は、待っていても来ない。自分からきっかけを掴まなければならないんだ。例えば、笹生優花が全米女子オープンの前に、久しぶりに挨拶にきたあと優勝した。原英莉花も昨年秋、ひざを故障して棄権したあとに練習に来た、何気なく、見てやったら次の週にいきなり優勝。アカデミーの選手も一人だけ挨拶に来たあと初優勝。俺が言いたいのは、俺のところに来たから優勝できたわけでなく、前向きに行動が運を呼び込んだんだな。動物は良いことがあると、ずっと同じ行動をするらしいんだ。人間も同じだよ。常に前向きな行動が運を呼び込むんだ。それが伸びる選手の条件かな。
金子 ジャンボが苦境を乗り越えるために必要なことを一言でいうと何でしょうか。
ジャンボ 俺はジャンボ尾崎であると、強く思っていたからだな。一番期待する人間は『自分自身』なんだよ。
金子 最後に、ジャンボにとってゴルフとは。
ジャンボ 俺にとって、ゴルフとは私を活かしてくれた大恩人であり、ゴルフの奥深さは果てしない。素晴らしいゴルフ人生、ゴルフの神様ありがとう。以上。
自身が積み上げてきたゴルフのすべてを若いゴルファーに継承していく姿は、まさに“ゴルフ界のカリスマ”。本のオビには、巨人・長嶋茂雄終身名誉監督から「ジャンボは最強のゴルファーであり、最高の指導者」との言葉も寄せられている。永遠に熱を帯びたままのゴルフへの思いがこの一冊から伝わってくる。