「月刊ゴルフレビュー」編集主幹でゴルフジャーナリストの宮崎紘一氏が言う。
「ツアーに出れば旅費、滞在費がかかる。それで賞金ゼロだと赤字になるだけ。しかし、全国いたるところにいる昔からのタニマチが面倒を見ているんです。全盛時には多大な『財力のあるファン』がいましたから。過去の『遺産』が生活の糧になっているわけです」
さらには所属先の契約金や用具などのスポンサー契約料で、2000万円ほどが入ってくるという。
だが問題は、途中棄権を余儀なくされるほどの腰の状態である。
「尾崎は60歳を過ぎた頃から、ティーグラウンドで打ったあと、持ってきた折り畳みイスを出して座っていた。本来は許されないことだけど、尾崎だから許された。ここ何年かも、そんな状態ですよ。激痛でもう立っていられない。2年ほど前から加圧式トレーニングを始めて、この春先なんか、『加圧式トレはすごくいいよ。非常に体が動くし、クラブも振れる』と話してはいたんですけどね。ただ、それは70歳になろうとしている人間の体に対してであって、スコアとは関係がない」(宮崎氏)
職業病とも言われる腰痛に加え、坐骨神経痛も抱える尾崎は、医師から腰部脊柱管狭窄症と腰椎分離症と診断され、06年12月に手術に踏み切っている。だが症状が回復しないまま、レギュラーツアー出場にこだわり続けるものの、結果は出ない。前出・宮崎氏は、尾崎のショットについてこう評するのだ。
「体が動かず、ボールに無理やり合わせていっている。筋力とバネがないから、へっぴり腰ですね。もう見ていられなかった。体も回転しないし、痛々しいですよ。あのロングヒッターが、今やドライバーの飛距離は200ヤードぐらいだといいます。もうボロボロですよ」
一方で、尾崎はかたくななまでに、シニア転向を拒み続けた。
「弟の健夫、直道をはじめ、シニアツアーを管轄する日本プロゴルフ協会(PGA)の倉本昌弘会長や中嶋常幸がシニアツアーに誘いました。(犬猿の仲と言われた)青木功も日本ゴルフツアー機構(JGTO)会長に就任すると、『1試合だけでも』と誘っている。あるいは、あるシニアツアーのスポンサー企業の会長みずから、『ぜひ出てほしい』と口説いてもいます。これはシニアの悲願であり、尾崎が出ることでシニアが活性化し、脚光を浴びる。試合も増え、グレードアップもする。尾崎が出るだけで、シニアの人気は圧倒的に上がるんです。ところが尾崎は『シニアは格落ち。現役をリタイアした選手が逃げ込むもの』という考えで、『年寄りの試合に出られるか!』というプライドから、首を縦に振らなかった」(前出・宮崎氏)
アメリカのゴルフ哲学に「ゴルフで得たものは、ゴルフで返せ」という格言がある。スポンサーやファンのおかげで成功したら、時期が来たら還元する。これが鉄則であり、尾崎のシニア参戦がまさに「お返し」となるのだが‥‥。