オミクロン株亜種の「BA.2.75」、通称「ケンタウロス」と呼ばれる新変異株が、日本国内で不気味な広がりを見せている。
今年5月以降、世界各国での感染確認が相次ぐ中、神戸で国内初の感染者(1人)が確認されたのが7月12日。その後、19日には大阪で2人、21日には首都・東京で2人、さらに27日には愛知でも1人の感染者が、それぞれ確認されているのだ。公衆衛生学の専門家が険しい表情で言う。
「わずか6人と侮ってはなりません。これまでに確認されている感染者は、あくまでも氷山の一角、否、そのまた一角にすぎないからです。事実、過去の変異株を見ても、散発的な感染が確認されるや、時を経ずして感染爆発が起こっているのです。今回の6人の感染者のいずれにも海外渡航歴がないことも考え併せると、日本国内におけるケンタウロス株の『市中感染』はすでに始まっている、とみておかなければならないでしょう」
その上で、この「ケンタウロス」の動きについて、この公衆衛生学の専門家は次のように警鐘を鳴らした。
「前回の第6波までは、おおむねひとつの山がピークアウトした後、新たな変異株への置き換わりが緩やかに起こり、新変異株の感染力に応じて次の山(ピーク)が形成される、というパターンでした。ところがケンタウロス株の場合、かつてない速さと規模で感染が急拡大している第7波の最中に、早くも市中感染による置き換わりが起きている。しかも、アメリカのアーカンソー州立大学の研究者らが指摘するように、ケンタウロス株の感染力は現在の主流株であるBA.5の3倍強にも達する、と言われているのです」
ならば、第8波はどのような山になるのか。公衆衛生学の専門家が続ける。
「おそらく第7波がピークアウトする前に、第8波の大波に襲われることになるでしょう。グラフで示せば、いわゆる『フタコブラクダ型』の感染爆発です。しかも、第8波のピークは第7波よりはるかに高いものになると予想される。場合によっては、第7波がピークを打つ前に第8波が始まってしまうという、フタコブラクダ型ですらない、連続的かつ直線的な右肩上がりの感染爆発となる可能性もあります。いずれにせよ、おおむね8月中には、ケンタウロス禍は手のつけられない状況になっていくでしょう」
残暑の列島を襲う未曽有の感染爆発。まさに「ケンタウロス、おそるべし」である。
(森省歩)
ジャーナリスト、ノンフィクション作家。1961年、北海道生まれ。慶應義塾大学文学部卒。出版社勤務後、1992年に独立。月刊誌や週刊誌を中心に政治、経済、社会など幅広いテーマで記事を発表しているが、2012年の大腸ガン手術後は、医療記事も精力的に手がけている。著書は「田中角栄に消えた闇ガネ」(講談社)、「鳩山由紀夫と鳩山家四代」(中公新書ラクレ)、「ドキュメント自殺」(KKベストセラーズ)など。