主にアフリカの西部や中部の熱帯雨林地帯で流行してきた動物(げっ歯類)由来の「サル痘」感染が、欧米や中東などの地域を中心に急拡大している。
6月4日、欧州疾病予防管理センター(ECDC)は、アフリカ以外の27カ国での感染確認数が10日前の3倍超にあたる760件に達したと発表。世界保健機関(WHO)も「極めて異常な出来事」「ヒトからヒトへの感染が起きている」などと警告している。
感染症に詳しい専門家は、
「ヒトからヒトへの感染が起きている以上、サル痘の日本国内への流入も時間の問題」
とした上で、次のように指摘する。
「サル痘には『西アフリカ系統群』と『コンゴ盆地系統群』という2つの遺伝的系統群があり、前者の致死率は1~4%、後者の致死率は最大で11%とされています。今のところアフリカ以外の地域での死亡例は確認されていませんが、今後、致死率の極めて高いコンゴ盆地系統群のウイルスがパンデミック(世界的流行)を起こすような事態になれば、サル痘は人類にとって、現在の新型コロナウイルス感染症をはるかに上回る脅威になっていく可能性があります」
サル痘の潜伏期間は一般的に、1~2週間。発症すると発熱や頭痛、リンパ節の腫れや筋肉痛などが1~5日間続き、その後、水痘や麻疹、梅毒などで見られるような発疹が顔面から体幹部へと広がっていく。感染症の専門家が続ける。
「サル痘には天然痘ワクチンが有効とされています。WHOが天然痘の撲滅を正式に宣言したのは1980年のことですが、日本では1976年以降、基本的に種痘(天然痘ワクチンの予防接種)は行われていません。年齢で言えば1974年度(1974年4月から1975年3月まで)に生まれた、おおむね49歳以下の日本人は種痘を受けておらず、サル痘に対する免疫も持っていないことになりますから、今から用心しておく必要があるのです」
サル痘が国内で大流行した場合、国がテロ対策用として備蓄している天然痘ワクチンだけでは到底足りないとの指摘もある。欧米で使用が認められている抗ウイルス薬の国内での使用も含めて、サル痘への事前の備えが求められるゆえんである。
(森省歩)
ジャーナリスト、ノンフィクション作家。1961年、北海道生まれ。慶應義塾大学文学部卒。出版社勤務後、1992年に独立。月刊誌や週刊誌を中心に政治、経済、社会など幅広いテーマで記事を発表しているが、2012年の大腸ガン手術後は、医療記事も精力的に手がけている。著書は「田中角栄に消えた闇ガネ」(講談社)、「鳩山由紀夫と鳩山家四代」(中公新書ラクレ)、「ドキュメント自殺」(KKベストセラーズ)など。