ベテラン芸能記者による随時連載『壮絶「芸能スキャンダル会見」秘史』では、しばしば有名人同士の深刻対立を巡るエピソードも取り上げられてきた。中でもコワモテ感がハンパなかったのが、7月2日に配信された記事。自分のことを歌にされ侮辱されたと激怒した大物アーティストがとった「容赦のない行動」とは──。
コトの起こりは、桑田佳祐が1994年9月に発売したアルバム「孤独の太陽」の中の1曲「すべての歌に懺悔しな!!」の歌詞にあった。
〈TVに出ないと言ったのにドラマの主役にゃ燃えている〉
〈小粋な仮面でどこかパクった小言を連呼する〉
そんなフレーズが、矢沢永吉や長渕剛を批判したものではないのか、と一部夕刊紙が指摘したのである。
とはいえ、本来なら「よくある飛ばし記事」で済まされるはずが、そうならなかった理由は当時、矢沢が「アリよさらば」(TBS系)でドラマに初出演していたことにあった。一方、長渕もシングル「RUN」をめぐる盗作騒動の渦中にいたことから、本人も驚く大騒動に発展してしまったのだ。
11月13日、桑田が大宮市でのコンサート終了後、緊急記者会見を開くことになり、大物女優を直撃する予定だった私は、編集部からの連絡で急遽、駆けつけることになった。
会見には所属事務所アミューズの大里洋会長、所属レコード会社ビクターの制作部長が同席。
「歌詞の一部だけを抽出して、長渕さんや矢沢さんを誹謗している、と書かれましたが、今回のアルバムは私小説にまとめたいという気持ちから、自分のことを歌ったもの。特定の人を意識したということは絶対にありません」
桑田は沈痛な表情で、記事の内容を否定。さらに長渕と矢沢ほか、関係者やファンに迷惑をかけたことを謝罪し、本来ならばこれでシャンシャンとなるはずだった。
ところが、長渕が11月下旬に発売された月刊「Views」誌上で「オレは桑田佳祐を許さない」と胸中を告白。
〈ケンカをふっかけるんだったら、相手をみてやりゃよかったのに。このごにおよんで、勝負するんだったら、音楽と音楽でやろう、なんてきれいごとは通じませんよ。そんなレベルじゃありませんから〉
まさしく、宣戦布告である。
同誌によれば、桑田が会見を開いた翌日、レコード会社の部長が「詫び状」を持参したが、長渕は〈詫びを入れるんなら入れるで、1対1という場面をきっちり作って筋を通せといいたいんだ〉との思いから、桑田の自宅宛てに手紙を送付。同時に桑田の自宅と事務所に電話を入れたが、返事がなかったことから、雑誌での反論となったという。
これはその後、吉田拓郎や泉谷しげるなどの大御所を巻き込み、さらなる騒動に発展することになるが、
「そもそも言いたいことを言い、歌いたいことを歌うのがシンガー。だから、ケンカ大いに結構。仲良くする必要なんてないんだよ」
ある音楽評論家が言った、そんな言葉に妙に納得させられたのである。
(山川敦司)
1962年生まれ。テレビ制作会社を経て「女性自身」記者に。その後「週刊女性」「女性セブン」記者を経てフリーランスに。芸能、事件、皇室等、これまで8000以上の記者会見を取材した。「東方神起の涙」「ユノの流儀」(共にイースト・プレス)「幸せのきずな」(リーブル出版)ほか、著書多数。