小泉今日子に中森明菜、さらには堀ちえみ、早見優、石川秀美など、多くのアイドルスターを輩出した「花の82年組」。だがこの年は、あまりにトップ集団の層が厚すぎて、輝きを放ちながらも2軍に甘んじてしまったアイドルが少なくない。
そんなひとりが、同年3月にシングル「虹いろの瞳」でデビューした新井薫子だ。「カオル」ではなく「カオルコ」。今では珍しくないが、当時は名前のインパクトに加え、少女漫画から抜け出してきた美少女を連想する、大きな目が印象的な正統派アイドルとして、人気を博したものだ。
「虹いろの瞳」は、のちに小比類巻かほるやNOBODYなどが所属するTDKレコード初のシングル。作詞には八神純子の「みずいろの雨」をはじめ、岩崎宏美、松田聖子、早見優、堀ちえみなど、女性アイドルの詞を書きまくっていた三浦徳子。作曲は柏原芳恵の「ガラスの夏」、河合奈保子「ガラスのYESTERDAY」、郷ひろみ「マイレディー」の作者として知られる網倉一也を起用。のっけから始まる、8分音譜の譜割にコトバを詰め込んだような3連フレーズと、キャッチーで可愛く弾けるような歌声が聴く者のハートをつかみ、オリコンチャートで最高45位になった。
しかし、「夏の定番ソング」との期待が込められたセカンドシングル「イニシャルは夏」(6月)が、奈保子の「夏のヒロイン」(6月)と、聖子の「小麦色のマーメイド」(7月)の発売と丸かぶり。オリコン60位内と健闘するも、11月リリースの麻丘めぐみのカバーシングル「私の彼は左きき」はチャートインできず…。
結果、1年ほど活動した後、腎臓に不調を訴えて休業した彼女は、地元・名古屋の病院に4カ月入院し、堀越学園高校も中退。
実は療養中に、趣味だった日本画や絵本を学び、80年代末からはイラストレーター、キャラクターデザイナーに転身。「カオルコ・KAORUKO」名義で活躍するようになる。
とはいっても、突如メディアから姿を消したため、一時は死亡説まで囁かれる事態に。本人が「夕やけニャンニャン」(フジテレビ系)に出演して、健在ぶりを証明するハメになったのである。
07年にアメリカに渡り、ジェンダーやフェミニズムをテーマにした現代アート作品を創作。コロナ禍の20年秋に帰国すると、翌21年1月放送の「あいつ今何してる?」(テレビ朝日系)に、松本伊代が会いたい人として登場したことは、記憶に新しい。
「不作の83年デビューなら絶対売れた」と言われる新井だが、ファンの間で「伝説のアイドル」となったのは、むしろチャート上位を逃した賜物、との声もあるとか。彼女もまた、デビューのタイミングで人生が変わったアイドルだったのかもしれない。
(大石怜太)