舞台は東京・新宿歌舞伎町のラブホテル。ピンク映画の巨匠・廣木隆一監督と、これまた数々のポルノやピンク映画を手がけた脚本家・荒井晴彦氏のコンビ。そしてR15指定。こんな条件が整えば、誰しも「何か」を期待するのは当然である。だが、主演が元アイドルだからか、その「何か」がスッポリと抜け落ちていたのである。
AKB48を卒業する際、前田敦子(23)は「本格的な女優を目指す」と宣言し、ドラマ、映画の世界へと飛び込んだ。映画監督、脚本家、評論家、配給・宣伝・興行関係者、映画製作者らが選考委員として投票する日本映画プロフェッショナル大賞では12年度に「苦役列車」で、13年度は「もらとりあむタマ子」で、2年連続の主演女優賞を受賞するなど、一定の評価を得ているように見える。
「さよなら歌舞伎町」(東京テアトル/来年1月公開)は、歌舞伎町ラブホテルの店長・徹を若手俳優の染谷将太(21)が、有名ミュージシャンになる夢をかなえようともがく女性・沙耶を前田が演じる。2人は倦怠期を迎えた同棲カップルという設定だ。映画メディアでは「身も心もむき出しになった男女がラブホテルで出会った時に何が起きるのか」という報道もあり、いやが上にも期待感は高まろうというものだが‥‥。
映画製作関係者が渋い表情で言う。
「作品には元AV女優などのいわゆる『脱ぎ要員』が複数出演しており、R15指定はそのせいです。前田の露出が過激だからではありません。露出といっても、せいぜいキャミソール姿と、コトが終わった直後の、シーツにくるまっているシーンだけ‥‥。ラブホテルの部屋に前田がいるという状況だけが、ファンが興奮する要素ですかね」
ピンク映画出身の廣木監督は一般作のメガホンを執ってからも「さわこの恋」で斉藤慶子を初脱ぎさせ、「ヴァイブレータ」では寺島しのぶがトラックの中で激しい性行為に及んだ。荒井氏もまた、監督・脚本を手がけた「身も心も」では、かたせ梨乃の壮絶なカラミを演出したほか、石田えりの「遠雷」、吉本多香美の「皆月」など、際どいシーンを描き出している。なのに、である。
映画ライターの若月祐二氏も落胆の色を隠さない。
「女優としての凄みが感じられないんですね。まだアイドル的な部分を引きずっている気がします。写真集では手ブラまでやっているのに、なぜこんなに露出がないのか。しかもテーマがテーマでしょ。ベッドシーンぐらいあって当然だと思いますよ。大人の女優になるのなら、真木よう子を見習って、それなりの覚悟でズバッと脱がないと。このままでは(同じく女優に転向している)ライバルの大島優子に先を越されてしまうんじゃないですか。彼女はAKB時代、楽屋でしょっちゅう裸になっていたというし、脱ぐことにさほど抵抗がないんじゃないかな」
上映されれば大ブーイング必至である。なぜこんなことになったのか。先の映画製作関係者が、舞台裏を明かす。
「もともとの脚本には主演のベッドシーンが書かれてありました。もちろん全裸です。ところが前田に決まった時点で、全て削られてしまった。事務所からNGが出たからです。前田中心の現場に変わってしまい、監督が愚痴っていたとも‥‥」
撮影中、染谷が走るのを見ているシーンで2時間もNGを連発したあげく、「納得いかない」と監督に逆ギレし、控え室に立てこもったという前田。本格女優と言いながら脱げないアイドル女優は、NGの上塗りをしたのだった。