「白い巨塔」が燃えている──。
日本中の外科医が3年ぶりに集まった、日本外科学会定期学術集会。フジテレビの永島優美アナウンサーが司会を担当し、東京スカパラダイスオーケストラの生演奏に合わせてパリピ、ではなく外科医のセンセイ達がノーマスクで「ウエーイ!」と嬌声を発する動画が拡散し、怒りの声が上がっている。会場のキャパシティーは約2000人だ。
筆者は同僚看護師、保健所職員や都府県庁職員と共に、5月8日まで新型コロナ対応で休みなし勤務の真っ最中である。このため外科学会の取材には行けなかったが、コロナ前の外科学会の懇親会なんて毎年、こんなもの。今年は上半身を脱ぎ捨てて踊り狂う外科医がいないだけ、まだマシである。
この3年、外科医は新型コロナで思うように手術ができなかった。手術のできない外科医は、開業医の場合はワクチン接種の手伝いに行き、勤務医は発熱外来に回され、コロナ患者の飛沫を全身に浴びながら鼻の穴をグリグリするだけの日々を送っていた。不安と屈辱の日々からの解放感で「ウエーイ!」する気持ちは理解できる。
ところが、だ。外科学会の主催者は安倍晋三元総理のブレーン、大木隆生氏。東京慈恵医科大学附属病院で「対コロナ院長特別補佐」の肩書を持ち、301人の医局員を擁する「白い巨塔」の住人だったのがマズかった。
前述の通り、全国の病院、保健所はまだ新型コロナ医療を続けており、東京慈恵医科大学の系列病院でも、GW中に見舞いにきた家族の面会制限を設けている真っただ中だったのだ。
アベノマスクや外食産業潰し、患者は今もマスク装着が義務付けられるなど、不条理を強いられる一方で、医師はマスクなしで大騒ぎするダブルスタンダード。患者が「なんで医師がマスクしてないのに、患者にマスクを強制するのか」「医師が好き勝手やるなら、病院の面会制限やめろ」と激怒したのも当然のことだ。
休み返上で働いている看護師や事務職員ではなく、当然ながら、パーティーに参加した外科講座の301人が、慈恵医大の患者と家族に納得いくまで説明してくれるのだろう。
大木氏は今回の外科学会定期集会を前に、ウェブニュース「メディカルノート」上で「安倍総理は強く賛同してくれて、すぐさま予備費からコロナ医療へ1兆3000億円の拠出を約束してくれました。また引き続く膨大な財政手当が、日本のコロナ医療の充実に大きく寄与したと自負しています」と述べている。
安倍元総理がバラまいた1兆3000億円が、回り回って派手なパーティーの資金源にもなったわけで、それが我々の増税で尻拭いさせられたら、たまったモノではない。仕事で呼ばれただけの永島アナ、東京スカパラまでトバッチリを食らっているほどに「医療不信」は暴発寸前なのだ。
(那須優子/医療ジャーナリスト)