沢田亜矢子をはじめ、山下久美子、椎名林檎など、芸能界では時として「未婚の母」騒動が話題になる。ただ、五輪にも出場し、当時大人気だったフィギュアスケート女子・安藤美姫の未婚での出産告白には正直、驚いた。2013年8月のことである。
彼女はこの年の4月に女児を出産。最初に本人のインタビューを交え、その事実を伝えたのは、7月1日の「報道ステーション」(テレビ朝日系)だった。するとその夜には電子版「VOGUE」もインタビュー記事を配信。翌2日に読売新聞がインタビュー記事を掲載し、都合3つのメディアが、いわば独占という形で彼女の肉声を伝えることになったのだ。早速、テレビ朝日関係者を取材すると、
「2007年から彼女の写真を撮り続けた縁もあり、『VOGUE』は内々に知らされていたようですが、ウチと読売は、安藤家と近い元スケート連盟幹部から情報を入手したようです」
本人としては、デリケートな問題だけに興味本位で報じられることを恐れ、媒体を選んだのだろうが、残念ながらそれで済むはずもなく、女児の父親が誰なのかを巡る報道合戦は過熱した。
7月3日にはマスコミ各社に対し、取材自粛を要請するFAXを送付したが、騒ぎは収まらない。そして7月5日、都内のホテルで弁護士を同伴し、記者会見を開くことになったのである。そして冒頭で安藤は、
「パパラッチに追いかけ回されて、そういった公表の仕方だけは避けたかった」
として、過熱一途の取材活動に対し、
「今、普通の生活ができない状態にあります。これ以上、相手の方、私の周りの方への失礼は控えていただきたい。あちらのご家族、関係者、サポートしてくれる方もいます。私の口から(父親が)誰かということを報告はしませんし、競技が終わってから相手の方と話して、きちんとしていくつもりです」
厳しい口調で約10分間にわたり、心情を吐露したのである。
この記者会見は、なかなか異例だった。というのも、安藤サイドが会見場に指定したホテルの披露宴会場は、使用料15万円ナリ。これをメディア21社が7242円ずつ負担することになったのだ。メディア側の要請でもあり、筆者の経験でも、会見場の費用を各社で頭割りすることは、さほど珍しいことではない。
ただ、この会見では映像を使用できるメディアを「スポーツニュース協会の認定番組」のみに限定。さらに使用期間も「会見終了後、24時間以内」と通達したことで、情報番組関係者からはブーイングが噴出した。その結果、会見によって「推定報道」は収束の兆しを見せたが、ソチ五輪を前に、安藤とマスコミとの険悪な関係がしばらく続くという結末を迎えたのである。
(山川敦司)
1962年生まれ。テレビ制作会社を経て「女性自身」記者に。その後「週刊女性」「女性セブン」記者を経てフリーランスに。芸能、事件、皇室等、これまで8000以上の記者会見を取材した。「東方神起の涙」「ユノの流儀」(共にイースト・プレス)「幸せのきずな」(リーブル出版)ほか、著書多数。