昭和のプロレスには特別な想いがある。「燃える闘魂」ことアントニオ猪木はもちろん、「四次元殺法」で一世風靡した初代タイガーマスク、「名勝負数え唄」と呼ばれた長州力VS藤波辰爾の遺恨試合の数々…。中でも「格闘王」こと前田日明と、彼が率いるUWF勢の活躍には心躍らされた。特番でしかテレビ放送はなかったものの、キックと関節技が主体、ロープへ振っても返ってこない、場外乱闘なしという格闘技色の強い試合内容に「これこそがリアルファイトだ!」と熱中したものだ。
そんな前田が久々に、テレビ画面に登場した。「有吉ぃぃeeeee!」(8月20日放送・テレビ東京系)でのことだ。収録日はレギュラーのタカアンドトシ、トシの誕生日。「バースデーセレモニー」と称し、プロレスラーに憧れたトシのために、サプライズとして収録会場に特設リングが準備された。
理由も聞かされず「持ってきて」と言われ、持参した私物のUWFロゴ入りユニフォームに着替えさせられ、リングに上がることになったトシ。すると、聞き覚えのあるメロディーが流れる。これは前田の入場テーマ曲「キャプチュード」ではないか。そしてそこに現れたのは、本物の前田日明!
有吉や相方のタカから「前田!」とコールが沸き上がった。神妙な面持ちで頭を下げるトシ。すると前田から直々に、ミドルキックの手ほどきを受けることに。しかも前田から「ちょっと動きがあったほうがいいかもですね」と提案され、実践的なスパーリングを行うことになる。ありがた迷惑なこの流れに、顔を引きつらせるトシ。10分1本勝負のゴングが鳴った。
早々にトシをヘッドロックに取り、そのまま首投げする前田。ヘッドロックが外れないまま双方が立ち上がると、トシは前田の腰に両腕を回し、バックドロップの体勢へ。が、もちろん投げられるわけもなく、ヘタっているトシを前田が軽く抱え上げ、ボディスラムのような形でやさし~くリングに寝かせて、そのままフォール。
トシも芸人の意地を見せ、カウント2で返した。フラフラのトシを、前田がこれまたやさし~くフライングメイヤー気味に投げ、続けてスリーパーホールド。苦悶の表情を見せながら、なんとかロープに逃げたトシが一瞬の隙をついて、前田に脇固めを見舞う。これは外されるも、グラウンドの体勢から、トシは前田にアキレス腱固めをかけた。が、余裕の表情の前田。トシの両足を絡め、クロスヒールホールドに極めると、あえなくトシはタップしたのだった。
その後、特にトークがあるわけでもなく、「バースデーセレモニー」の締めくくりとして、10カウントゴングが鳴る。リングの中央に立つトシに視線が集まるが、その後ろで前田はそっと会場から出て行った。
この日の主役は誕生日を迎えたトシとはいえ、あまりにあっさりと去って行く前田に「もう少しトークの場とか設ければいいのに」と思ったが、ふと、あのことを思い出した。
それは、昨年「午前0時の森」(日本テレビ系)に前田が出演した際のこと。「女性の身体的特徴に関する発言、性的な発言、差別表現をした」と相当、叩かれたのだ。番組側としては、日テレの二の舞になっては大変だと、前田に喋らせなかったのだろうか。
「ごっこ」の域ではあるけれども、久しぶりにリングでプロレスを魅せてくれた前田。少し昔だったらそんな遊びもなく、ガチで技を極めてきたかもしれない。だがさすがの格闘王も「あの出来事」以降は、丸くなった…のかもしれない。
(堀江南)