東京電力福島第一原子力発電所の処理水放出をめぐる中国政府の禁輸措置から1カ月が経過し、日本国内では禁輸によりだぶついたホタテなどの海産物を支援する動きが、国民の間で盛り上がっている。
その一方で、かつての牛海綿状脳症(BSE)問題の時のように「焼け太り」が起きるのではないか、という不安の声が増幅。「多少価格が安くなっても、国内向けに売ろう」という姿勢が当の漁業関係者から伝わってこないことに加え、中国にホタテを売って「ホタテ御殿」を建て、相当な年収を稼いでいた業者がいるからだ。事実、SNSではホタテ業者バッシングが目立つ。
「年収3000万円以上のホタテ業者、国からの税金で助けてもらおうと必死」
「国が全量買い取れ、あのさあ、そんな商売ある訳ないだろう」
「ホタテ業者は適正価格で売りたくない。中国が買ってくれた値段で国が買い取れということか」
実際に鮮魚売り場で、ホタテは目立たない。作家の門田隆将氏は、自身のSNSで次のようにコメントした。
「北海道の方からのヤフコメが面白い。『数年前まで大きいホタテが安くスーパーで買えた。だが欲をかいた業者が中国に売り、食べられなくなった。今更政府に文句ですか?』。その怒り、分かります」
確かに中国向けのホタテ、ナマコを扱っていた漁業者は苦しい。朝日新聞では外国の商社から考えられない安値の提示がきて、「足元を見られている」とボヤく業者が紹介されていた。
7月24日の時事通信の報道によると、水産庁の調査では北海道や青森県、岩手県などでホタテの取引価格が、処理水放出前より1割超も下落。政府は中国を経由せずアメリカなどに輸出できるよう加工設備の国内導入補助などを打ち出しているが、漁業関係者は「対策に即効性がない」と反発しているという。しかし即効性といっても、何を期待しているのだろうか。大手スーパーの幹部が言う。
「業者はまだ売り渋っている感じです。処理水放出による中国の禁輸措置は、業者には天災でしょうが、新型コロナ禍を乗り切った人からすれば、これも商売のひとつ」
北海道猿払村は、漁協を中心に大規模なホタテ加工施設を作り、2019年度には年収の高い自治体トップ10に入ったほど成功した自治体だ。ホタテ御殿が建つ町として、何度かマスコミに取り上げられた。仮に国民の税金で、中国に売っていたような高値で買い取れば、国民の反発は必至だろう。
中国の日本の水産物禁輸は許せないと、国民はホタテ業者を支援する機運が盛り上がっているが、誰もホタテ御殿を支援しようとは思っていない。
(健田ミナミ)