かつて売れた時の収入を上回る「脱・一発屋芸人」が増えている。例えば、なかやまきんに君。2022年に吉本興業を退社すると、筋肉芸人としての需要が右肩上がりに。大手企業からのCMやイベント案件が相次ぎ、アメリカ筋肉留学で培ったトレーニングをYouTubeチャンネル〈ザ・きんにくTV 【The Muscle TV】〉にアップすると、チャンネル登録者数が237万人を突破するインフルエンサーになった。
きんに君と同じく、長所に時代が追いついた稀有なパターンが「ジョイマン」だ。2008年、細身の高木晋哉が「ナナナナー」と左右に踊るキモ悪ダンスに、池谷和志が「なんだ、こいつ~!」と眉をひそめるラップ漫才で大ブレイク。
ところがその後、緩やかに表舞台から消え、2014年にはデパートで行なわれたサイン会に客が0人という「事件」が起きた。
皮肉にもこれがジョイマンを思い起こさせる呼び水となり、吉本芸人が全国47都道府県に住み込んで地方活性にひと役買う「住みます芸人」ルートを経由して、全国から営業のオファーが殺到。昨年は営業本数が吉本でトップに立った。
「天津」の向清太朗は、大のアニメオタクを高収入につなげた。相方の木村卓寛が2008年にオトナの詩吟で喝采を浴びた頃も、向はブレずにオタク道を邁進していた。
やがて木村のソロ人気は終息する。収入は激減したが、現在は家族で岩手県に移住。「岩手の大泉洋」として、知らぬ者はいない存在になっている。
向は関東に残り、仕事の9割強がアニメになった。2022年は320本以上の仕事がアニメ関連で、年収は2000万円を突破。睡眠不足になりながら、1クール(3カ月)で50本から70本は見るルーティンが増収につながった。
かつて「あるある探検隊」で一世を風靡したベテランコンビ「レギュラー」も再ブレイクし、介護業界のNo.1芸人になっている。2014年に西川晃啓と松本康太が介護職員初任者研修の資格を取得。レクリエーション介護の一環として、全国の施設を漫才や脳トレ体操で回るうち、「行列ができる漫才師」になった。現在、テレビ出演はないが、月収は往時を上回っている。
「SNSで有名女優やアイドルグループのメンバーを陥れたり、在阪賞レースのヤラセを告発するなどして問題になっている元『プラス・マイナス』の岩橋良昌は、劇場や営業だけで月収が200万円ありました。最近はここにSNSや配信イベントの副収入が加わる働き方が、芸人の主流となっている。長所や趣味を生かしてその業界を独占するとリピートが絶えないので、元一発屋芸人にとっては、おいしい安定収入となっています」(お笑い評論家)
作家や監督、俳優や脚本家との二足のワラジが当たり前になった芸人の食い扶持。筋肉やアニメ、介護に続くのは何か。
(北村ともこ)