フワちゃんの暴言は叩かれたが…朝の情報番組が「死ね」と放送するのは許されるのだろうか。
アーティストのあのが8月21日に、5カ月ぶりの新曲「愛してる、なんてね。」をリリースした。傷つきながらも好意を寄せる人と共に生きる希望を見出す姿を描いた歌詞はあのちゃん本人、作曲は小説家として芥川賞候補にもなった「クリープハイプ」の尾崎世界観が手がけ、ミュージックビデオ(MV)は俳優の岡山天音が出演して盛り上げている。
リリース当日、民放テレビの各情報番組では、この曲のサビにある「みんな死ね、なんて強がりすぎです」と歌う箇所を繰り返し放送。曲全体を聴けば、ネット上やSNSに暴言や人格否定があふれる、殺伐とした現代を生きる若者ならではの心情が「刺さる」。だが、毎年500人以上が自殺している10代に多大な影響力を持つあのちゃんだからこそ、安易に「死」を口にすべきではないだろう。ましてや「死ね」という歌詞を切り取って、テレビ局が朝から繰り返し流す必然性など全くない。
フワちゃんの「死んでくださーい」を叩いておきながら、同じ番組枠で「死ね」と繰り返し放送する地上波テレビ局のご都合主義と無神経さ。あるレーベル幹部が、危機感を募らせて言う。
「6月には、昨年レコード大賞を受賞したMrs.GREEN APPLEの新曲『コロンブス』が大炎上したばかりでしょう。今どきの世界史の教科書や歴史観ではコロンブスは航海士、冒険家ではなく奴隷商人の扱い。たとえコロンブスを礼賛する歌詞と、原住民を猿に見立てたMVのアイデアがアーティストから出たとしても、レーベル内で却下されなかったプロセスはウヤムヤのままです。この時も朝の情報番組は、すでにSNSでMVが大炎上していたにもかかわらず、ノーチェックで垂れ流しました。その後、突発性難聴で加療中のボーカル・大森元貴だけが矢面に立たされた。民放各局は大森の謝罪を報道するのみで、自局で問題のMVを流したことへの謝罪はなかったですね」
このレーベル幹部は、アーティストを「売って」自己保身に走った競合他社とテレビ局に唖然としたという。
「アーティストが売れている時は『イエスマン』に徹し、何かあればアーティストに全責任をかぶせる。この業界に30年以上いますが、ゾッとしましたね。阿久悠や松本隆など昭和のヒットメーカーはもちろん、韓国の音楽業界でも『死ね』なんて歌詞はありえないでしょう。懐メロが売れているんじゃありません。アーティストの才能頼みの国内レーベルに、名曲を作り出す力がもう残っていないんです」
これでは世代を超えて愛される名曲が世に出るわけがない。
(那須優子)