長年の競馬ファンの中には、東京や京都など中央開催の裏で行われるローカル開催の伝統重賞こそ「大穴馬券の狩り場」だとして、予想に燃える者は少なくない。関東在住の馬券師ライターT氏もそうだ。11月10日に福島競馬場で行われる芝2000メートルのGⅢ「福島記念」を前に、
「どう仕留めるか、予想するだけでワクワクする」
と目をギラつかせている。
それもそのはず。近年、京都の「エリザベス女王杯」と同日開催が続いている「福島記念」は、過去10年間で1番人気が勝ったのは、2019年のクレッシェンドラヴ1頭のみ。上位人気(3番人気以内)が全て消えるという極端なことはないにせよ、一筋縄でいかないローカル重賞ならではの面白味が満載なのだ。T氏が言う。
「GⅠレースの裏と決まっているから、どうしても騎手のレベルにムラが出るし、乗り替わりが多い。そして重賞未勝利馬がなんとかここで重賞を勝ちたいと、それなりに仕上げてくる。ところが勝ちたいばかりに慎重になりすぎて、レースラップが異様に遅くなったり、逆に気合いが入りすぎてとても速くなったりと、フタを開けるまで何が起こるかわからない。だから極端な脚質の馬が激走するパターンが多いのが、このレース。今回の狙いもそこです」
今年の福島記念、T氏は2016年、2021年、2022年の再現が起こると予想している。この3年はそれぞれ、マルターズアポジー(7番人気)、パンサラッサ(5番人気)、ユニコーンライオン(10番人気)が大逃げを打って、そのまま1着でゴールインする展開となった。今年はそうなるというわけだ。
「逃げが決まらなかった年は当然ありますが、逃げ馬がある程度の人気でマークされていた年、または上手く逃げられなかった年に分かれます。ですが、2016年や2022年は、まったくのノーマークで逃げ切った。今年は誰も気にしていないべラジオソノダラブの単騎逃げに懸けていいと思います」(T氏)
それにしても、前走のオープン特別で最下位16着に沈んだ馬を本命に挙げるとは、大胆すぎる予想に思えるが…。
「だからこそ、ノーマーク(笑)。実は地方からの転厩場で、今回が中央4戦目です。初戦は全くお門違いの1200メートルで、最後方から競馬をして惨敗。ところが中京で行われた2走目のケフェウスS(芝2000メートル)は、11番人気のノーマーク逃げで3着に入った。そして前走は東京・芝2000メートルで最下位でした。この3レースでわかることは、小回りコースのノーマーク逃げでこそ、穴を開けられる馬ということ。さらにポイントは斤量。中京では53キロ、別定の東京では57キロでした。今回のハンデは53キロですよ。ここで買わずしていつ買うのか、という馬なんです」
確かに説明を聞くと、食指を動かしたくなってくる。T氏いわく、今年の福島記念には確固たる実力馬がいないことが、穴馬の逃げが決まる可能性を高めている、と。
事前予想でべラジオソノダラブはなんと、14番人気。仮に3連単でアタマ(1着)なら、数十万円以上の馬券は確定だ。T氏がさらに続ける。
「多頭数で結果を出せてない3歳馬のシリウスコルト、ルメールでようやくオープン特別を勝っただけの7歳フライライクバードが人気2強と、今年は特に一長一短の馬だらけです。このレベルのレースで人気薄の逃げが決まる場合は、好位の人気馬が直線で力尽きることが多い。となると、相手は人気馬を見ながら少し後ろから競馬をする馬。京都大賞典から来るスタミナ豊富なドクタードリトルや、障害から戻って馬が変わったギャラクシーナイトあたりが、人気2頭より買える要素がある」
GⅠ並みの力説が続くが、逃げ馬から買った馬券が決まった時の爽快感はすさまじい。小回り福島でその醍醐味を味わいながら「超ドデカ3連単」を狙い撃ちたい。
(宮村仁)