食品中の放射性物質を規制する基準値が改定され、厳格化された。内部被曝量が減るのはありがたいが、福島第一原発からはいまだチョロチョロと“汚染水”という放射能が漏れ出ており、海の汚染は収まらない。このままではオヤジたちの憩いの場、居酒屋から「酒の肴」が消えてしまう。
この4月から食品中の放射性物質を規制する「新基準値」が施行された。
これまでの暫定基準値は内部被曝量を年間5ミリシーベルトで設定されていた。その上限が「新基準値」では、年間1ミリシーベルトまで引き下げられた。新たに乳幼児食品の項目が設けられ、飲料水は20分の1まで基準値が下がっている。
大人が食べる一般食品も1キロ当たり500ベクレルだった基準値が100ベクレルまで下がっている。つまり、この基準値を超えると出荷停止となるのだ。
突然、こんなに厳しくして、我々の食い物がなくなることはないのか。
放射線防護学が専門の日大歯学部総合歯学研究所准教授の野口邦和氏が言う。
「昨年3月17日からの1カ月間で暫定基準値を超えた食品は12%だったのに対し、現在では0・5%以下まで下がっています。しかし、陸上の生産物に比べると、水産物の汚染濃度を示す数値は高めとなっています。これは、生物濃縮が一因だと言えます」
汚染されたプランクトンを小魚が食べ、その小魚を大型魚が食べる。その食物連鎖の過程で、どんどん汚染物質が濃縮されていく。現在、問題となっている放射性セシウムは水銀より濃縮係数は低いというが、これは大問題だ。
オヤジたちが居酒屋で一杯やる時の、最良の酒の肴は刺身や煮付け、焼き魚である。「新基準値」のもとでは、魚が食べられなくなるのではないか。
水産庁は東日本の海域で獲れた水産物の放射能汚染の検査結果を公表している。3月23日までに、17種の海水魚、7種の貝や海藻、6種の淡水魚が基準値を超えている。その多くが、操業を停止している福島県沖の魚である。そして、この基準値は以前の500ベクレルなのだ。
では、「新基準値」の100ベクレルではどうか。福島県以外の太平洋で獲れた魚が100ベクレルを超えている例もある。3月17日に公表されたデータでは、茨城県沖で採取されたコモンカスベが111ベクレル、コモンフグが153ベクレル。遡っていくと茨城県以外でも、宮城県沖のマダラが145ベクレル(1月25日公表)を叩き出している。その中には、マコガレイやヒラメといった居酒屋メニューになっている魚種も含まれている。
特に、ヒラメは刺身で食されることが多く、鮮度を考えると近海のほうがよい。首都圏のオヤジたちは、白身のサッパリした味わいで、コリコリした食感を楽しめなくなりそうなのだ。