遺品の中に「偽造借用書」が…
話は前後するが、筆者は由美香が亡くなった05年の暮れ、由美香の納骨を間近に控えた母・小栗冨美代に会っている。
有名ラーメンチェーンを切り盛りしてきた女傑だけあって、小栗は、激しい怒りを包み隠さず筆者にぶつけた。
「由美香の四十九日に、最後につきあっていたって男が来たよ。その男がさんざん浮気して由美香を苦しめていたのも知っていたし、なのに線香代も持ってこないんだから。私はね、殴らせろって言ったの。1発目は殴り損ねたから『歯を食いしばれ!』って言って、次はブン殴ったよ」
由美香は、自身の体調や複雑な人間関係を、ごく一部の近しい者を除いて隠し続けた。そのため、訃報に驚いた関係者が多かったのである。
由美香と同じくピンク映画で長いキャリアを誇る中村京子もその1人だ。
「私がやっている『中村酒店』というバーにもよく来ていて、いつも楽しいお酒を飲んでいたから。ずっと病気療養という話でもなかったので、まさか死ぬとは思わなかった」
誰にも知られることなく6月26日に亡くなり、翌27日の誕生日に発見される。26日には平野勝之監督のドキュメントAVの撮影が控え、27日には親友の吉行由実監督が撮った「ミスピーチ 巨乳は桃の甘み」の初号試写の予定だった。吉行は、誕生日のお祝いは試写の場で伝えるつもりでいた。しかし、由美香が試写室に現れることはなかった‥‥。
吉行は亡くなる直前までの由美香の明るい表情が忘れられない。
「最後につきあった年下の男で考え方が変わった。ようやく人に対して心を開けるようになり、亡くなる1年前には、お母さんともうまくいくようになったと言っていました」
由美香は「人生で一番幸せ」と言い切った。その明るさは、男と破局しても変わらなかった。
「心のリハビリをしようと思ってさ。いろんな男の人と、ゴハンを食べることから始まるデートをしているんだよ」
密室での突然死だっただけに、一部で「自殺説」も流れたが、吉行は、あの前向きだった由美香にそんなことはないと思った。
そして母親の小栗は、第一発見者として由美香の遺体を見ると、こう漏らしている。「家の中なのに、なぜ、足の裏が真っ黒になっているの? ヘンじゃないの?」
あくまでも憶測だが、例えば「いろんな男の人」の誰かがマンションへ押しかけ、玄関先で裸足で押し問答するうちに黒く汚れたのではないか。無人のはずだった室内には、本当は誰かが“侵入”していた可能性はないのか─。
しかし、その答えは司法解剖ではなく、警察が事件性がないと判断した行政解剖では、永遠の謎のままであろう。
現在は病床にあり、改めて話を聞くことはできなかった母親の小栗は、7年前に筆者にこんな言葉を残している。
「由美香の遺品を整理していたら、明らかに偽造された『500万円の借用書』が出てきたり、由美香から100万円を借りたまま返していない女もいた」
“妖精”であっただけに、すべての邪心を細い身に抱え込んでいたのだろうか─。