「愛欲とウソと迷宮」の謎に多く包まれた、90年代に起きた女たちの事件簿。取材の過程で明らかになった事件の主役となった魔女、怪女、毒女たちの「闇の肖像」。そこから浮かび上がった女たちの人生ドラマをダイジェスト公開する。
97年3月、渋谷区円山町の木造アパート空室で女性の死体が見つかった。東京電力東京本店勤務の39歳独身女性と判明、捜索願から約1週間後の発見だった。
ところが、この女性には、“昼の顔”と“夜の顔”が浮かび上がってきた。
〈「地元ではよく知られた女性ですよ。夜の8時過ぎから、このあたりの道を何時間もフラフラしてましたから…」(商店主)そして、夜ごと、中年や初老の男性と連れ立って歩く不審な行動から、「その手の女性」と見られていたのだ〉(97年4月3日号)
奇怪な男性交遊──遺品の手帳には“交際リスト”があり、行方不明になった3月8日当日も男性と会っていた。
〈「コンビニで缶ビールとツマミを買い、彼女と一緒に円山町のホテルに入ったと言ってます。そして、その男性は彼女に3万5000円を渡して、10時30分ごろ、道玄坂交番の前で別れている。このときのツマミなどが遺体の胃の残留物と一致」〉
次々と売春の実態がさらされたのだ。
一方“昼の顔”を知る同級生は、彼女には高校時代、大学時代を通じて男性の影は一切なかったと断言する。
東電の同僚は、職場での孤立、環境になじめない、また拒食症の傾向など、生きづらさを抱えていたと証言した。
夜の常連客のひとりの証言。〈「裸の写真を撮らせてくれたり、SMチックなこともOKだった。また、どんな体位にも応じてくれた。しかも、彼女自身もプレイを楽しんでいたんです」〉
その行動には特異な“春をひさぐ”夜の女の肖像が垣間見られた。
超エリートOLの“昼の顔”と夜ごとホテル街を徘徊する“夜の顔”、その狭間で彼女の内面に芽生えた深い悩みと絶望──。
警察は、現場周辺に住んでいたネパール人男性を容疑者として逮捕したが冤罪だった。彼女を殺した真犯人はいまだ見つかっていない。