160軒近い店が並び、1日に1500人近い男たちが訪れる大阪・飛田新地。その内幕を告白した「飛田で生きる」の著者・杉坂圭介氏は、01年から10年間、飛田料亭の経営に携わった。高校時代の先輩に「月に400万〜600万円儲かる」と誘われて始めたものの、そんな甘い世界ではなかった─。
08年9月のリーマン・ショック以前は、それなりに稼げた時期もあり、女の子に恵まれると、実際に500万円近い利益を出せた月もあった。だが、それは一時的なもので、リーマン以降は客単価が下がりっ放し。最低目標とした300万円どころか、100万円にもならない月もあった。
「月1000万円売り上げても、女の子とオバちゃんの取り分を払ったら、手元に残るのは400万円。そこから家賃50 万円、求人広告費30万円、光熱費、ガソリン代とかを払ったら、利益は300万円。さらに他の風俗から女の子を引き抜くための資金もかかるのだから、仕事のリスクを考えたら、割りが合わない」
仕事自体がリスキーだが、それ以外にも連絡もせず店を休む女の子や要領の悪いオバちゃんに胃を痛めたり、スカウトに行ってトラブルに巻き込まれる。接客態度を注意したら、逆恨みした女の子が他の子全員連れて店からいなくなったこともある。また、クスリをやっている子や未成年の子が年をごまかして面接に来たり、ネットに事実無根の悪口を書かれたりと、神経の休まる暇がない。加えて飛田特有の甘い罠も多い。
「飛田では、親方(マスター)でなく、女の子のほうから近づいてくることがよくある。仕事を終え、車で送って行くと『コーヒーが飲みたい』とか言って、ホテルに誘ってくる。ここがふんばりどころなんです。だけど、ふんばれない。その子が、ただ“したい”だけならいい。でも、絶対それだけで終わらない。親方に手をつけられた女の子は必ず他の女の子にこう言います。『ここだけの話、マスターとしちゃった』と」
飛田の女の子の中には、他の子に差をつけたがって親方に近づいてくる子がいる。だから3日もすると、“私はマスターの女よ”という顔をし、店を仕切りだす。そうなると、他の女の子たちは「バカらしい!」となって、次々に辞めていき、店が成り立たなくなる。自業自得なのだが、飛田ではよくある話なのだ。
「『アタシがいるからええやん』と言うけど、その子が残っていると、ようやく入った新人もすぐに辞めてしまう。かといって、その子を無理やり辞めさすと変な噂を流されたりするから、邪険にできない。どうにもならなくて、あっという間に貯金もなくなる。悲しいのは、そんな痛い目にあっているのに、また同じことを繰り返す。『彼女なら大丈夫やろう』と思って、何回も裏切られるんです」
杉坂氏だけでなく、飛田の親方たちの中には「今、目先の欲望で、こいつに手を出したら、店がガタガタになるな」とわかっていても、手をつけてしまう人が少なくないのだ。