東日本大震災発生直後の約150時間を記録した東京電力本店のテレビ会議映像が、報道関係者限定で公開されている。しかし、その大部分が持ち出し禁止で、随所に修整が加えられ音声も不完全。東電社員の“監視”もある。そんな「公開映像」を、連日東電に通い徹底分析。膨大な情報から重大な新事実を2回にわたって摘出する─。
携帯をしまうよう命じられ
いくつもの小画面に分割された動画の中央で、作業服姿、マイクを片手に時折左手を突き上げて熱弁を振るう中年と思しき男性。そこに一切の音声はない。
この男性はなんと菅直人総理(65)‥‥。
これは先頃、東京電力が公開に踏み切った福島第一原発事故当時のテレビ会議映像の一コマである。
公開は東電本社1階にある会議室で行われている。記者は入り口で指定された番号の席に座り、室内にズラリと並ぶ東電が用意したパソコンで動画を閲覧する。各パソコンの脇にはバインダーが置かれ、会議システム内でのやり取りを東電側が「文字起こし」したものがとじてある。
会議室内は録音・録画禁止。後方に2台の監視カメラが据え付けられ、複数の監視要員も配置されている。
記者が卓上に出していいのはメモ用ノートかパソコン1台のみ。着席時にカバンからパソコンを取り出している最中に監視員が接近してきて、こちらの様子を注視することも。そして携帯電話を卓上に置くと、彼らからしまうよう命じられた。
こうして着席してパソコンの画面に向かうと、デスクトップ上には2つのフォルダがある。
1つは東電本店で、3月12日22時59分から3月15日0時6分まで録画され、51のファイルに場面が分けられたテレビ会議の動画。もう1つは福島第二原発で、3月11日午後6時27分から3月16日午前0時2分まで録画され、場面が17のファイルに分けられたテレビ会議動画である。
福島第二原発での録画に音声がないこと以外は2つのフォルダともに、画面は6分割され、それぞれに同時中継で結ばれた、東電本店災害対策室、柏崎刈羽原発、福島第一原発、福島第二原発、福島オフサイトセンターの5つの現場の様子が映り、右下画面には何も映らない形だ。音声については、幹部職員以外は具体的な氏名に「ピー音」が、顔にはボカシが頻発する念の入れようだ。
いずれの処理も個人情報保護が目的だというが、正直、勝俣恒久会長ですらようやく視認できるレベルの画質と画面の大きさで、東電側がそこまで細かな修整をしている意味を感じることはできない。
さて冒頭で紹介した菅総理の現場の模様は、福島第二原発で録画された無音映像の一部だが、公開された約150時間強の映像のうち約100時間強もがこの無音映像だった。
しかし、残る音声ありの映像約49時間を詳細に見ていくと興味深いやり取りが次々に登場してくるのだ。